なんでもない3日間の出来事
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「私たちが退屈って、世界にとっちゃあ良いことかも知れないんだけど……ヒマね」
「あぁ、ヒマだ」
アメリカ製のサイフォン式で入れたコーヒーをすすり、ホルマジオの口はあくびに大きく開かれた。
いよいよ駄目になった音声端子のせいでテレビからは音がしない。
ホルマジオは、狂った犬のニュース映像と共に映し出される文字をぼんやりと眺めていた。
『多発する狂犬病の驚異』
ウイルスの電子顕微鏡拡大画像は、モノトーンの濃淡のみで描かれた円と面の連続。
印象派の描く人物の顔か動物か建物か、ロールシャッハテストでも仕掛けられているように浮かんで見えてきた気がして、ホルマジオは「うへぇ」と舌を出した。
ナナシは傍らで退屈そうに雑誌を眺めている。
買い物は午前中に済ませた。
収入のメドが立たないから、飲みにも行けない。
かといって、窓際で開催されているプロシュート大司教の説法の席につこうとも思わない。
ごきげんなメローネ薬学教授の実験に付きあう気もない。
体内にみなぎっていたはずの自活する意欲や気力は、退屈が一滴残らず吸い出してしまったようだった。
「……まぁ、見てろよ。もうじきヒマがツブれるぜ」
「まァた何かやらかしたの……?」
ナナシは口先だけで『やれやれ』を作った。
しかし、つま先に引っかけていただけのヒールのストラップをプチンと止めなおす。
もちろん、退屈からの逃亡に加わるつもりがあったからだ。
その証拠に、死んだようだった目が息を吹き返してチラリと光り、イタズラへの期待を露わにしている。
銃声!!!!!
このマンモーニ!とお決まりの悪口が飛び出しそうになったプロシュートも、怒鳴られる覚悟をしたペッシも、自分の手元で爆発が起こったのではないと気付いたメローネも、ぱっと顔をあげた。
きらびやかな破裂音。
間を置かずに駆けてくる足音に、ホルマジオの顔がニンマリと笑う。
「ほォら、ヒマが潰れたぜ」
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