なんでもない3日間の出来事
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研磨された金属の臭いが鼻について、イルーゾォは顔をしかめた。
この臭いはどうも好かない。
気分が底なしに沈んでいく。
色で現すなら、黒に限りなく近いグレーと黄土色をぶちまけた、法則を持たない汚い柄がぴったりだ。
髪を耳にかけるように、頭を狙う邪魔な銃口を手の甲で避けた。
「何のマネだギアッチョ。俺にかまわないでくれ」
「仕事が無ェからって勘にぶらしてんじゃあねーよクソったれ。オレが別のチームから派遣された暗殺者だったら、テメェの頭はズドン!だぜ」
レンズごしに銃身の先を睨み付けていたギアッチョは、ふざけた様子もなく言った。
「どうせニセモノなんだろう?」
「ッたりめーだ。クダラネェ冗談でホンモノは向けねぇ」
しょっちゅう実弾を込めたままの銃を振り回してるくせに、と続けそうになったイルーゾォの口は、重たい気分のおかげで余計なことを言わなかった。
ギアッチョが精巧に出来たジャッポーネ製のモデルガンのパレルをガシャンと引く。
ホンモノと違わない重みと手応えで、ビン!と薬莢が飛び出した。
拳銃所持が合法でない国だからこそ、このテの玩具が発展するのか。
と、関心したギアッチョは賞賛の口笛を鳴らした。
「アジトで待ち伏せられる事態になったら、俺は鏡の中をどこまでも逃げるさ。……ま、暗殺者の巣窟をジャックできる奴らがいるとも思えねぇがな」
恨みつらみの類はたたき売りしてきたが、誰かが個人的に命を狙われたにしろ、「はい、じゃあ死んでお詫びします」とオメオメ殺される素直な輩は誰一人として見あたらない。
一般的な生活を送ってきた人間なら、九割九分、返り討ちにあって即、絶命する運命だろう。
……残り一分の可能性?
再起不能の半死半生に決まっている。
長くて百年あまりの人の一生。
残り少ない人生を世界一の殺し屋達に付け狙われ、小さな部屋から一歩も出ずに小鳥が立てる小さな羽音にまでビビりながら震えて過ごしたいと切望する者がいるのなら、もちろんその尊大な意志を尊重しようじゃあないか……という気構えだ。
別の組織からの刺客の可能性?
それも無い。
麻薬のルートや縄張りを与えられていないリゾットのチームを潰すメリットが無い。
随分と情けない事情だが、もっと情けないのは、これが実状ということだ。
ギアッチョは一度、わざとらしい舌打ちをする。
「そういうコトを言ってんじゃあねぇよ」
『まるで本物』のようなモデルガンの照準を空瓶へ合わせ、引き金を引いた。
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