egg
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さきおとついから全身を苛んでいた原因不明の倦怠に耐えかね、三日かそれ以上着替えていないシャツのまま、リゾットから受け取った金の残りを掴んで二ブロック先の内科へ駆け込んだ。
あの時の俺ときたら、ブランケットに籠城する意志すらも薄弱だった。
普段、精神の均整と安定を担うDDISAもMUIPOも舐め尽くしていて、兎に角、それに代わる何かを手に入れなければ、とても生きていられそうになかった。
「死にたくて、死にたすぎて、もう死んでしまいそうだ!」
ツジツマなんてものは、一度引き出されたVHSの磁気テープがつむじ風に吹かれた後くらいにこんがらがっていて、マッタクの再生不能。
俺を診た医師は聴診器すらも当てがいはせず、無責任にも『宜(よろ)しからぬ』 の判子をひとつ押しただけで、諸々必要と思われる薬剤処方の手間を極端に、勝手に端折った。
「痩せぎすだね。食べていないだろう。きちんと食べて、そして眠ることだ」
「眠れるもんか」
「眠れなくてもいい、横になっているだけで疲れは取れる。せめて食べなさい」
オイシャサマのオッシャることだ 。
イレるものをイレていないのは確かだったが、いま俺の体が必要としているのは『まともな』栄養じゃあないんだ。
安くない金を支払い、不快を上乗せされてアパルトへ帰り着く途中。
ついに足が止まったのが運悪く食料品店の前で、さらに運の悪いことに十かそこらの男の子供が一人で店番をしていた。
元来、ガキなんて生き物に好かれたくもない、好かれるいわれもない生き方をしている自分を、世間の酸いの甘いのといった全てを無視した純真な目が、すがるように見ている。
店番を言い渡されたんだろう。
だが、 この時間に閑古鳥が鳴いているようじゃあ、いままでずっと退屈していたに違いないのだ。
重苦しい頭でも、それくらいの想像はついた。
「買わないの?」
ぶっきらぼうにガキがいった。
立ち止まってしまった手前、たしかに「何の用もなかった」とは言いだしにくい状況を作り出したのは自分だ。
「体が重たくて足が勝手に止まっただけだ」と白状するのは簡単だが、それはいかにも情けない。
仕方なく、籐編みの浅い籠に積まれた卵をふたつ掴んで、少年に手渡した。
「それだけ?」
「充分だよ」
思った通り、生意気なクチをきくガキだった。商才はないんだろう、この時間にガキ一人を店番に置いてどこかへ行ってしまっている親に似て。
一番小さいサイズの紙袋に、はみ出しそうになりながら詰めたたまごを受け取った。
診療の対価を差し引かれた釣り銭を全部渡したが、ガキからは1リレも返却されなかった。
冷静になって考え直すと、だいぶ高いたまごだったようだ。
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