egg
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ヘリンボーンが体のラインを強調する、シャンと伸びた背筋。
あの唇が耳に触れて、遠くでしか聞いたことのない声が私だけに愛を囁いた。
そう、晴れた日の朝方に。
普段は煙草のフィルターに占領されている唇を、ベッドの中では私だけのためにあけておいてくれる。
エスプレッソやグラッパを注文されるだけで腰が砕けそうになる声が、ここでは私に、私だけに「愛してる」って言う。
びろうどの短い毛足が首筋の神経を撫でたみたいに、首から肩へゾクゾクした快感が伝わる。
快感はリンパに沿って、胸やお腹や、深夜にあの人が触れた所に流れていく。
外はもう明るいのに、暗いうちにあんなに愛し合ったのに、またフシダラな気持ちになってしまう。
「私も愛してる」
フシダラな気持ちに蓋をしてそう返せば、見たこともない優しい笑顔で、今度はちゃんと唇にキスをくれる。
今働いている事業所は景気がいいから、将来は郊外にマンションを買って二人で暮らそうと幸せな約束をしてくれる。
くすぐりあっているうちに朝が昼に近くなる。
白いシーツの中ではそんな事どうでもよくって、ミルク色の肌が薔薇のチークを塗ったみたいに色づいていく。
解けた髪は純血の証の金色。
整った顔と均整のとれたボディラインは、神に創造された最高傑作品。
こんな男が自分のものだなんて。世界中の女を敵に回して、とても……『いい気分』。
でも、どうしてかしら。
昨日の夜あんなに愛し合ったはずの彼は、分厚くて古いカウンターごしにコーヒーを注文しただけで、私と目も合わせない。
人が出歩いていないこんな早朝に、あなたには似合わないうらびれた路地裏の店まで、わざわざ私に会いにきてくれていたんでしょう?
喉に落とし込んだコーヒー一杯分の料金を投げ捨てるようにカウンターへ放って煙草をくわえ、ケータイを取り出した。
ヘリンボーンが体のラインを強調する、シャンと伸びた背筋。
今日はその背中が手の届かない所へ行ってしまうように見えた。
「───!!!」
思わず店を飛び出したが、呼び止めたい彼の名前が声にならない。
彼の名前って何だった?
信号すらない小さな道。
秋風に、体がフワリと躍り上がった。
にぶい音。
近づいた空が急に遠くなって、重い体が地面に叩き付けられて何度か跳ねた、
火のような苦痛。
左目だけで、流れ出していく自分の血液を見た。
飛び出した右目が、肘と手首の間で曲がった腕の前に転がって、こちらを見ていた。
.