egg
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婚姻まで守らねばならないクリスチアンの貞操だとか、神経質な男が毎朝届けられるミルク瓶から半分を飼い猫に分けてやることだとか、お天道様が空にある間はモノを喰っちゃあいけないだとか。
該当者以外にはマッタク意味をなさないくだらない、実にくだらない、そして理解に苦しむ『理由』というものが、世の中にはごまんとある。
それをどうやら、オレは無神経にもひとつ(あるいは複数の複雑なものを)ブチ壊してしまったようだ。
女というおしゃべり好きの生物と同じ空間に居て、こうも空気が冷たいのは何故か。
陰険なブスや言葉の通じない異国民じゃあない。
うち解けあったはずの、それもとびきりの美女が、ここ二日間、口をきいてくれないからだ。
オレの犯行は、その二日前に遡る。
手持ちぶさたに目が留まった釣竿を振るい、ダストボックスを大きく外れて転がっていってしまった書き損じのメモを引っかけようとひとイタズラこいていた。
凶器は釣竿。
釣り好きのパイナップル頭がキッチンで魚をさばく間、バスルームのすみに立てかけておいたヤツだ。
便所に立ったついでに持ってきたそれを軽く、ほんの軽く振っては丸まった紙くずを狙う。
一度目、二度目と軽く振りすぎた針先はサラっとテーブルの上を滑ったきりだったので、三度目は大きく振るった。
川に投げ入れる時ほど、とは言わないが、部屋で込める力加減では無かったことを認める。
針先が引っかけたのは、二羽の天使が枠を掲げ持つ、クラシカルなデザインの写真立てだった。
いつからそこにあったかは解らない、が、ナナシが置いたものには間違いない。
写真立てといっても、特別に好きな映画俳優のブロマイドだとか、まして大事な家族写真を飾っていたわけでなく、ちょうど納まるサイズに手書きされたカレンダーが味気なく納められていた。
足下をすくわれる形で落ちたその写真立ては、床とほぼ垂直に落ちたんだろう。
「だろう」というのは、ソファの影になって決定的瞬間が見えなかったからだ。
全面に硝子がはめ込まれているはずだが、鋭く割れる音はしなかった。
面倒だがしょうがねぇな、と、ナナシが置いたのに間違いないそれを拾い上げようと立ち上がってソファの向こうを覗き込んで、しょうがねぇ、では済まされない惨事を目の当たりにした。
ソファの後ろには、付け根の部分から羽根を折った天使が転がっていた。
見たまんま、手遅れなそれをすくい上げた時、後ろから名前を呼ばれた。
「…ホルマジオ?」
それがこの罪に対する罰の始まりだった。
手の中にある天使のカケラを見開かれた瞳が捉え、オレの名前を呼んで半開きになったままの唇が、静かに閉じられた。
それきり、きつく閉ざされたままだ。
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