egg
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頭に詳細な記憶はないが、体は習慣として『たまごを冷蔵庫に納める』という使命を果たしていた。
我が事ながら、何と律儀なことか。
金属の蓋を水平に閉め損なっていた塩の瓶は中身を湿気らせて、瓶底と同じ円筒形の一塊りにしてしまっていた。
幸いにも、最後に使った日を思い出せないほど長い間放っておいた砂糖の瓶のほうは、コルク栓をちゃんと奥までつまらせていたおかげで、黒い列を成して押し寄せる小さな略奪者からの被害をまぬがれる。
がりがりと削った塩をひとつまみ。
砂糖をふたさじ。
使いもしないキッチンテーブルに軽く叩き付けたたまごのダメージ部分に指を突き立てて、セパレーターに落とした。
薄皮に守られたオレンジ色の玉の周りを、透明な白身が落ちていく。
ふたつめを叩く。
黄身の周りを落ちていくはずの、糸くず状のカラザとは違う白い固まりが、黄身の隣に残った。
小指の先ほどの楕円。
縮小したたまごの形、別の生き物のたまごの様な…
たまご?
たまごの中から、たまご?
こんな具体的なマボロシも見るようになったのか、オレの腐った脳みそは。
フォークの先でつっつくと、ビニルの感触の柔らかな外郭の感触が伝わってきた。
とがった先端に突かれた白い膜がブチンと破れて、ミニチュアの白身と、もっとミニチュアの黄身が割れ出た。
全身に沈んでいた倦怠感が、内側から爆発した。
理解するより早く強烈な嫌悪感が突沸し、慄然とした。
全身を覆う見えない毛並みを銀糸の鋭さにまで研磨され、逆撫でされてたみたいだ。
先に出てくるはずだったか、後に続くはずだったのきょうだいを。
まだ自己意識すらもたないたまごのこいつは。
魂ごと丸飲みに。
喰ったのだ。
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