道化師A
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「やぁ、やぁ、お集まりの紳士淑女の皆様。本日は世にも珍しく身の毛もよだつ恐ろしいショウにお集まりいただき、まことにありがとうご「さっさと始めろォ!!」
不思議とくぐもりのない声で始まった口上を、観客の野次が遮った。
大きく切れ上がった口の描かれている仮面の上で、生身の目がスウっと細められた。
燕尾服は頭に羽根飾りのついた帽子を乗せ直す。
やくざまがいの客、暗い路地裏の薄気味悪い笑いに、母親は一抹の後悔を覚える。
夜風の肌寒さからかばうように、女の子の肩をしっかりと抱き寄せた。
「本日は、随分と気の短いお客様もいらっしゃるようなので。早速、人食い犬をご覧にいれましょう」
パンパン。
白手袋が二度手を打つと、燕尾服男の軌跡をたどるように、痩せた犬が一匹ノコノコと舞台裏から現れた。
大型犬。
といってもグレートデンやボルゾイより小さい。
犬種は、誰の目にも明らかな、その辺に歩いているのと変わらない、雑種。
何より、目に覇気が感じられない。
あちこちでささやき合う声が増えた。大きくなった。
全員の白んだ視線をものともせず、燕尾服男は続けた。
「楽しいショウの始まりです」
───犬に食われる立候補者はいらっしゃいませんか?
一瞬、ざわめきが止まった。
「いらっしゃいませんか?」
「…いらっしゃらないんですか?」
燕尾服男はぐるりと観客席を見渡し、間を置いて2度、問いかけた。
「それはそれは、残念です。だれも食われないなんて、今日はショウができませんね」
「テメェが食われろ、インチキ野郎!!!」
やれやれ困ったと両手を広げた燕尾服男に、さっきの野次がまた怒鳴った。
今度は誰が怒鳴ったのか、客席の全員が解った。
女連れの、育ちの悪そうな男だった。
「それでも結構ですが、私を食べ終わったあと、この犬はお客様がたを片っ端から食い散らかしますよ?」
「ハン、こんな犬ッコロ一匹に出来るもんか」
「出来る出来ないというより、過去に『いたしました』から」
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