道化師A
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ヴェネツィアに、一年ぶりのカーニバルが訪れた。
今日の太陽は燃えながら建物の間へと沈んだ。
芸術性に優れた建物の彫刻達はライトアップされ、屋台と着飾った人々をぐるりと囲んで、ものも言わずに広場を見下ろしていた。
辺りは、昼間よりは幾分か静かな喧騒をたたえている。
真っ白に顔を塗りつぶした大男が、夜闇に炎を吐く。
ヴェイルを顔にかけたチュチュの乙女が、フリルの付いた日傘をさし、高い高い所に張られた綱を渡る。
昼間ナイフのジャクリングを見せていた異国の若者は、松明を4本から五本、さらに六本と増やして放り投げ、お手玉にする。
歓声と拍手が巻き起こった。
先ほど箱の中で切断された少女が生還し、ピンクの縞柄スカートのはしを持ち上げて頭を下げた。
短い足で客の間をかいくぐる小男のシクルハットに、観客がコインや札を入れる。
今日の
喧騒の端。
大道芸人の一団から離れた暗がりに、大人の背丈よりまだ大きな額縁がひとつ、設えられていた。
額縁の天辺からは、想像上の生き物だろうか、羽根の付いた痩せた犬のような、また大型の蝙蝠なのか、悪魔なのか、奇妙な彫刻が中を覗き込んでいる。
左手に豊穣の葡萄の木と男、右手に裏切りの林檎の木と女の裸体の彫刻。
煤けた金茶の額縁と同じ色の仮面で顔の上半分を隠した黒髪の男が、影のそのまた影に隠れるように腰を下ろしている。
黒いズボンの右膝をたて、その上にフリルのついたシャツの右腕をのせ、そこへ星と羽根で飾った帽子の頭をさも重たそうにもたせ、仮面の奥でまどもむ琥珀色の両目には、時々真っ赤に燃える焔が映り込む。
伸ばした左足に投げ出した左手には、銀製の長煙管が今にも転げ落ちそうに危うく乗っている。まだ細い煙が上がっているのに。
額縁は、本来絵を飾るべき部分に幕がかかっていた。
近づいた老夫婦が、座り込んだ男と二つ三つ言葉を交わし、真ん中よりやや右側で合わさった二枚の幕の向こうへ消えた。
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