バックミラーシアター
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とある個人的な依頼の報酬として受け取ったアメリカ産の単車は、それはそれは素晴らしい乗り心地だった。
盛りついた荒馬のように力強いエンジン、少々のことでタイヤを跳ね上がらせたりしない総重量。
愛情と手入れを怠らなかった『元』持ち主達のおかげで、マニア向けの扱いづらさを残したまま、この種独特の『10回に一度エンジンがかかれば万々歳』のような安定の無さを克服していた。
駄目になってしまった緋色のアプリリアなんかよりずっと面白いと、ゴーグルの奥で細い目がにやけた。
スエズ運河みたいに長い渋滞にまんまとはまった馬鹿な車の間を縫って走る。
モンスターなみにデカデカとプリントされたアイドル歌手、両手で抱えきれないほど大きくひきのばされたバストにヒュウっと思わず口笛も出たが、突き刺さる風のおかげで自分の耳にさえ届かなかった。
向こうに、揺れる赤いライトと警戒線が見える。
通行規制を張る、自分の人生に未だ何の徳をももたらしてはいない忌々しい制服を来た連中がいて、またイイキモチを妨害しようとしていた。
「…嫌ンなっちゃうね」
声を出さずに漏らした呟きは、今度は自分の耳にだけ届いた。
ブーツでギアを蹴り入れ、アクセルをいっそう強く握り込んだ。
まだ新品同然のグローブの革が軋む。
ノーヘルのこちらに向かって制服野郎が何か叫んだが、「なーんにも聞こえない」ので、そのまま単車を突っ込ませた。
似たようなスタントなら、車の廃棄場で何度か試している。
『迂回』と書かれた黄色いボードを足場に、羽根のロゴプレートを埋め込んだ大きな車体が飛びあがり、先に停まっていた渋滞の元凶らしい白い車の屋根に、渋滞に巻き込まれた全員の苛立ちを代弁するかのようなタイヤ痕と凹みをつけた。
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