バックミラーシアター
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「次は、『お前を愛して』…だ」
「あい、あい?あいしてるってどういうコトだ?」
「お前が砂糖を『欲しい』と思う気持ちに似ている、らしいぞ。愛して…書けるか?」
シミだらけの白衣を肩に引っかけた男はハンドルを握り、後部座席に向かって文字を教えていた。
視線を前方に向けたまま、横道に逸れる興味を戻してやりながら文字を書き取らせる。
「か、書けた」
シートの間から、ガーゼ素材で縫われた柔らかな袖が突きだされた。
前歯でかじって短くなったボロボロの爪が、『愛』と書かれた白いメモを突きだす。
「よォし、いいぞ。次は、世界で唯一。せかいで、ゆ い い つ …難しいか?書けるか?」
「せかいで『ういいつ』」
「唯一、だ。上手く書けたら、パインアップルの味のキャンデーをやろう」
「うぉ、お、書くぞ、書くかくかく」
引っ込んだ手は、運転席のヘッドレストを台にして文字を書き始めた。
苦心しいしい、「ういいつ、ゆ、ういいつ」と唱えながらポールペンを走らせる。
垂直の紙に文字を書き続けたボールペンはときどきインクが出なくなるので、そのたびメモを書く後部座席の男はチュパチュパと先端を吸った。
「よし、よしよし。良ォくかけているぞ」
残り少ないメモには『お前を愛して』や『世界で唯一』という文字が並び、筆圧でこどろどころに穴が空いていた。
しかし、上手く書き取れている様子に満足した白衣の男は、ポケットからパインアップルと青リンゴの味のキャンデーを褒美にやる。
キャンデーにかじりつく後部座席の男をバックミラーごしに見て、僅かに口角をあげた。
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