ベゴニア
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「…コレにしよう!振った音からすると、細かいパーツが別れているみたいだから、多分ティーセットだよ」
「絶対?メローネを信じるからね」
棚から顔をあげた二人は、進まない列に並ぶホルマジオを探した。
派手な柄のTシャツに『いかにも、わたくしはパカンスに来ておりますのよ』と主張するかのようなサングラスを引っかけたムチムチの中年女性が、英語で何事か話しかけてきた。
「店を出たってさ」
「ふゥん。並ぼうか」
店の棚の間を蛇行しながら続く列をたどり、メローネとナナシは列の最後尾についた。
うら温かい、平和な午後。
考古学博物館を目の前にした影の小道に、先ほどの老人が息をひそめていた。
「フトコロはしっかり締めておかなくちゃあ、いけねぇよ」
ヒッヒッと、引きつる笑い声をひとり漏らす。
───そのすぐ後ろ。
赤毛の若者が、温んだ陽気には不似合いな目つきで立っていることには、まだ気付いていないようだった。
ドゥオモ方面へ向かう車が近づいたのを耳だけで確かめる、カウント、ウーノ…ドゥーエ…
背中にブーツの底をお見舞いされ、老人の体が、前のめりに道路へと飛び出した。
くぐもった、衝突音。
跳ね飛んだ音の後を、慌てたブレーキが追いかける。
が、時既に遅し。
半回転して対向車にぶつかりかけた小型トラックは、コカ・コーラの広告とは違う赤色をボディにしぶかせている。
「おー、あったあった。オレのサイフ」
ホルマジオは、男の懐からこぼれ落ちたサイフを取り上げた。
中身は非情に寂しい状態だったが、使い込まれた牛革のサイフ本体には価値も愛着もある。
「確かに、フトコロはしっかり締めておかなくちゃあ、いけねぇな」
とろんと焦げたキャラメル色になじんだ革のサイフをポケットに仕舞い、もう一つ二つ、落っこちたサイフを拾い上げた。
野次馬が集まり出す前に通りを引き返したホルマジオは、会計待ちの行列を避けて出てきたメローネとナナシの姿をとらえ、「チャーオ、こんなところでお会いするとは偶然!」と声をかけた。
ダイエットにもいいと噂のアジア麺を3袋、小さなティーセットが入っていますようにと一心に願をかけられた菓子の箱がひとつ入った袋を手に下げた二人は、列をほったらかして消えたホルマジオに二言、三言、文句を垂れる。
「旨いメシでも食って帰るか?オゴるぜ」
「うわァ珍しい!明日はヤドクガエルでも降るのかな!」
ヘラヘラと謝ったホルマジオが二人分の機嫌をとりつくろうように提案すると、メローネは大げさに驚いておどけた。
「なら、予報が外れて夕方からカエルが降り出す前にテメーだけ帰れ。そのぶんホテル代にアテるからよ」
ナナシに肩を組み、珍しくワイセツな冗談を絡めてホルマジオが笑う。
乏しかったサイフの中身は、まぁ『日常的によく起こりうる偶然が重なった』、そう、『リーダーの言いつけはきちんと守ったホルマジオに、偶然訪れた幸運な出来事』のおかげで、少し裕福だった。
ヤドクガエルも雨も降りそうにない青空を見上げたナナシは、眩しさに鼻がムズムズしてきて、クシュンとクシャミをひとつした。
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