ベゴニア
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ホルマジオは、ちょっと前に話題になった海外からの輸入食品を、時代の波に乗り遅れながらも試してみる気になった。
ナナシを誘うと、重い荷物は無さそうだと勘づいたらいしいメローネが退屈そうな速度で鳴っていたタイピング音をとめ、「オレも」と同行の意志を示す。
従者を従えてスカラ広場に立つダ・ヴィンチ像は、このいい天気の下でも物憂げな表情。
頭の上には大量発生して市民を困らせる鳩を一羽、肩にも一羽留まらせてフンをかぶり、現在ある生命に小馬鹿にされた形で立っている。
『腹の部分にかかとをつけて上手く一回転できると幸運が…』
観光名所にもなっている子牛のタイルにはぐるりと人集りができ、中心で細い手足の少女がバレリーナになりきってクルリ。
土星の輪を描くような一回転の後、同伴の男の子と抱き合ってキスをした。
ベゴニアが丸い花をびっしりと咲かせる植え込みと微笑ましい光景を横切って、ヴィスコンティ城へ向かう方向…ダンテ通りの一角が、お目当ての店。
華やかなミラノの目抜き通りに昔からある、日用品と、鮮度を気にしなくてもいい食品類を扱う雑多な店。
異国の商品が数多く取りそろえられているおかげで観光客がひっきりなしに出入りし、カメラの絵に赤い斜線の入った『店内撮影禁止』のサインを無視してあちこちでフラッシュが焚かれる。
ドロリと穏やかな晴れ。
混雑する店内でも、お目当ての品はすぐに見付かった。
ホルマジオがレジに立つ間、ナナシとメローネは店内を見て回り、ニホンのオモチャ付き菓子を買うか買うまいかと真剣に悩む。
子供だましのチープなオモチャなど3日もすればもう飽きて、アジトのソファの背板と座面の隙間に挟まっていたりするのが目に見える。
それを承知で、でもホルマジオも咎めない。
お喋り好きの店員がマイペースにレジ打つ。
蝸牛も業を煮やしそうな速度でしか進まない列から、ホルマジオは二人に声をかけた。
「その箱の中身がティーセットだったら、ひと箱くらい買ってやってもいいぜ」
プロシュートの高級な腕時計を椅子代わりに、ギアッチョが吸うロイヤルハバナの箱を重ねたテーブルで、ペッシが自分用に買って隠している有名な店のラング・ド・シャを両手でかかえてかじりつく、退屈な午後の小さなティー・パーティ。
我ながら乙女チックな発想だ。
ホルマジオは苦笑いがこみ上げてきたが、中身の解らない箱からティーセットを見つけようと真剣になりはじめるメローネとナナシを見て、今さら水をさすつもりも無くなった。
ふと、左側の棚を見て商品を選んでいた『ふうの』老人が、さり気なくホルマジオの前に入り込んできた。
───ボケ老人か?
手はとっくに、尻ポケットの中のナイフの柄を握っている。
『各自、目立つような行動は控えろ』
任務の無い日々が続くと踏んだリゾットは、野放しにすれば恐喝でも窃盗でも各々好きな悪事を重ねる面子にしかと言い渡していた。
───しょうがねぇ。
そうは思いながらも、こっちはもう充分、十二分に待たされている。
「おいジジィ、割り込むなよ」
「ゥあ?あんた、並んでいたのかい?お、オレはそんな、割り込むつもりなんかァ無かったよ、まさか、割り込むわけが無いだろゥ…」
まるで好青年みたいな口振りで言ったホルマジオに、老人は謝りもせずブツブツと言い訳を垂れながら列を離れる。
後ろで顛末を見守っていた観光客らしい中年女性が「Good Job!」と声をかけた。
数人分後ろへ下がった老人は、また商品棚を眺めるふりをしながら、列の真ん中あたりに割り込んでいる。
今度は、腹周りがナナシの5倍もありそうなマンマに高い声で罵られ、ついに何も買わずに店を出ていった。
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