ドミノ ージエンドオブエデンー
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歪んだホイールが接触面に火花を吹き上げ、千切れたゴムをバタつかせる。
エンジンレベルは互角、タイヤのバーストさえ無ければオールドスタイルのカマロは追いついていたのかもしれない。
馬のいななきに似たアプリリアのエンジン音とカマロの吹き上げる轟音とが重なり合い、静寂の夜を貫いて反響した。
心許ない灯りたちは闇に混じり、セルリアンブルーの線になって二台の両脇を流れ過ぎる。
エナメルピンクの塊の、挑発的なバックファイヤー。
目の前の女の髪が、わずかに遠ざかった気がした。
男のプライドに、どす黒い念情が混ざり合った。
ハンドルを長い脚の膝で固定し、外と内部の空気を遮蔽していたウィンドウを下げて頭を出した。
冴え渡る冷気が車内へとなだれ込み、プラチナの肌をもろに突き刺す。
結いつけた髪を風圧に乱されながらステンレス球の瞳はただ一点を睨みつけていた。
男は利き手の位置を定める。
フロントガラスの内側からためらい無く、撃った。
弾丸と同じサイズの穴を中心に、細かく真っ白い蜘蛛の巣状のヒビがガラス全体を覆う。
寸分狂い違わぬ照準通り、ただ一度の引き金に送り出された弾丸はエンジンに熱穴を穿(うが)つ。
段だらの金属棒に支えられた前輪部へと突き抜けた時、鋼鉄のマシンは灼熱の炎を吹き上げた。
騎手を失ったピンク色のマシンが朱炎をまとい、弾かれた独楽のように横倒しで地べたに舞い狂った。
アプリリアを構成する金属たちは軋みきり、毒色のプラスチック片を弾け飛ばして摩擦に悲鳴を上げる。
投げ出された…いや、発砲音と同時にシートから飛び退いた女は炎にふれる前に固い地面を転がった。
不格好に地を転がったように見えたのも、衝撃を全身の筋肉や関節全体で受け流すために最も合理的な体制だったからだろう。
それが証拠に、女はカマロがブレーキをかける頃には回転の力を借りて起き上がり、目の前の路地へと身を翻していた。
エンジンの重みと劣悪なドライビングを受け負い続けたカマロの右前輪は、ゴムから椰子の樹皮繊維に似た細いワイヤー軍を露出させ、ホイールは走行の限界まで歪みきっていた。
美貌の男の面構えは、伊達男のそれを忌々しげに引きつり潰し、食いしばった犬歯を剥き出す。
危ない橋を渡って積み上げた金の化身であった車がひとつ再起不能にされたから、ではない。
男の中で定めあぐねていた感情は今、愛憎という名を付けられた。
自尊を捨てた生身の脚が女を追う。
野生獣の目で。
獣の皮を剥いで作った、真っ黒い靴で。
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