贖罪
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ソルベとジェラートを形成していた細胞が炎によって原子のサイズへと分解される。
幾億、幾兆、幾京にもなって大気に溶け、長い旅を始める。
それは、タヒチの燃えるような夕暮れを漂うかも知れない。
南米でライフルを構える兵士の汗に付着するかも知れない。
平和な国の女性が真夜中に開く本のしおりにとまるかも知れない。
深い暗い水底で、未だ人間に名前を付けられていない魚の生きる糧になるかも知れない。
ソルベとジェラートが燃える有害な臭いが、メルセデスのすぐそばまで近寄った。
ナナシは肺に入れられるだけ吸い込んだ。
咳き込みそうになるのを堪えて息を詰め、幾億、幾兆、幾京の一部を無理矢理自分の血液に溶かした。
そして、黒い煙の上っていく雲のない空を見上げる。
「今日は雲がなくて、よかった」
ナナシのつぶやきに答える者も、それ以上口を開く者も、その真意を知る者もいなかった。
弓張り月の空は、濃度の違う黒で揺らめいた。
その煙を海風が吹き散らし、空間との境目をすっかりうやむやにする。
二人を焼く炎は揺れながら震え、全員の体を温めながら、時間をかけて。
やがて消えた。
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