ブラインド・ゲイジ
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「なぁ、天国って知ってるか?」
ひとしきり笑って落ち着いたソルベが、板の切れ間から外の様子を窺った。
猫一匹、山鳥の一羽も生き物は居ない。
「聞いたことはあるけど見たことは無いわね」
「上にあるんだぜ。山よりも、雲よりも、空よりもずっとずっと高い、人間の手の届かないあたり」
指紋の残らない拷問用具をそのままに、埃と嫌な臭いの充満した廃屋を後にする。
少し離れた位置、イチジクの木に絡むように群生した茨の影に停めておいたメルセデスのH2が発車すると、辺りはまた、午後の静けさを取り戻した。
「さっきの続き。生きてるものは死ぬと腐ったり喰われたり燃やされたりして、散り散りになって、軽く軽くなってどこまでも昇っていくんだぜ」
固く、しかし包み込まれるように座り心地のよいシートに沈んだナナシに、運転席のジェラートが声をかけた。
「でも、散り散りは雲に触れると雨になって地上に落っこちてしまう。落っこちてきた雨は、太陽に乾いて雲になって『誰か』だった散り散りを捕まえるんだ」
大きく空いた運転席と助手席の間からソルベが振り返り、宙の何かを捕まえるようにひらりと手を振って『捕まえる』と、握った。
「だから、誰も見たことがないのさ。ずっとずっと高い所にある天国ってやつをな」
ソルベの握りこぶしの上から、ジェラートがそうっと手を握る。
「フフ、なら、私の散り散りはソルベとジェラートに捕まえてほしいわ」
葉を落とした国立公園の木々が遠くに見えた。
寒々しい光景を目蓋で遮り、ジリジリと焼けるような向日葵の光景を思い出しながらナナシは眠たげに答える。
「……何で俺たちが先に死ぬような言い方するんだよ」
「……?……そういえば、そうね。私が先だったら、ソルベとジェラートをちゃんと捕まえるわ」
薄く開けた目から差し込んだ細い光が、視界の端から端までびっしりと埋め尽くしていたオレンジ色の幻影をたちまち消し去ってしまった。
「オゾンの穴は、もしかしたら地球から抜け出したかった誰かが必死にこじ開けたのかもな」
「ソルベってば、ロマンチスト!」
「ただの精神論」
→ドミノ ージエンドオブエデンー
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