ブラインド・ゲイジ
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曇り空にぼけた太陽が浮かぶ、冷たい空気に包まれた午後。
ぼんやりした明りにくるまれ、ときどき鳥がヒッヒッと鳴きながら飛んでいく以外、辺りは昼寝にもってこいの静けさをまとっていた。
誰が手入れするわけでもない植え込みの木々が、小屋へと続く小道の両脇から自由に枝葉を伸ばしている。
白いペンキが剥げ落ち、ささくれ立った木を剥き出した、街から随分離れた作業小屋の中。
足の指が音を立てて、あらぬ方向へと折れ曲がった。
「───ァアァア!!」
「こういうの、久しぶりじゃあないか?」
「そういえば、そうだな」
ニッパーで男の足の指を千切るように折ったジェラートが、アイロンが温まるのを待つソルベに言った。
絶叫など耳に届いていないかのような、穏やかな声と声。
わずかに残った洗濯糊の熱される臭いが、古い鉄板の面からたち始める。
「前に一緒に行った時もそんなこと言ってなかった?普段は?」
「―――知らなかったのか?俺たち『解体(バラシ)屋』だぜ」
「そ、死体処理専門」
ちょんと人差し指をアイロンに当て『良い頃合い』を確認してソルベは頷いた。
「拷問スキ。でもさ、これしてるとすごく興奮しちまうから仕事にならねぇんだよな」
指の折れた足の裏から、タンパク質の焦げる煙が立った。
「もうウンザリなんだ」
悲鳴にかき消されそうな呟きがジェラートの口から漏れた。
ガタン、ガタンと、男を縛り付けたテーブルが跳ねる。
ついヒールの中でピンと爪先立っていたナナシは、何事かとジェラートの横顔を覗き込んだ。
「前にウンブリアへ行っただろ?お前らの行ったノルチアの空き家にさ、2人で住みたいと思ってる」
「どういう事?」
「そのまんまだよ。組織を抜けたいんだ」
ソルベの口から飛び出した突飛でとてつもない野望に、ナナシは口がきけなかった。
「心配するなよ、俺達なら逃げ切れる。組織から離れたって生きていけるさ」
タンパク質の焼ける嫌な臭いの煙が、締め切られた部屋に浮遊する。
ナナシは2人の横顔に一つの思惑を嗅ぎ取った。
埃に混じって小屋に狂い廻る断末魔は、止むことがない。
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