シュールマルーシェ
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「……聞いては失礼かしら。ソリッドさん、お仕事は一体なにを?」
「仕事か。しているといえばしているが、していないといえばしていないな」
背格好、醸し出す雰囲気から『同業者』なのかと思っていた。
外見だけで見定められる情報がごく少ないのは確かだが、それにしても『ソリッド』は定職についている様子もなく、ギャング独特のウロつき方や回護をしている様子もない。
「そんな人からお金を受け取るのは嫌です」
「心配には及ばん。あの辺りのいくらかは俺の土地だ」
「はぁ」
「知っての通り、カジノでも少々稼がせてもらっているしな」
『ソリッド』は目の下にスッとシワを入れ、喉の奥でクツクツと笑った。
この男には、少しばかり気難しいような堅苦しいような、そして強引なところもある。
しかし常に大人の落ち着きを滲ませ、隙を持て余してはボードゲームに興じるさまは、たしかにチンピラやギャングのイメージとは程遠い。
『ソリッド』が自分の店だと言った古書店のあたりの地価は決して安くない。
昼間からフラフラとしていられるのは土地成金の二代目だからかと、ナナシは勝手な考察を完結させた。
椅子の上から取り上げたワンピースのポケットが着信を告げる。
「失礼、……プロント」
片手でワンピースに足を入れながら肩にケータイを挟み、話しかける。
『ソリッド』に聞き取れたナナシの言葉はごくありふれた応対のみで、会話の内容までは解らない。
両腕を通して電話を切ったのを見計らい、『ソリッド』は真っ直ぐに立てられた背筋にヒタリと寄った。
ナナシの丸い尻に降りているファスナーのつまみを、引っかからないようゆっくりと上げてやる。
そっと肩を撫で、唇をこめかみにすり付けるようにした『ソリッド』を少しだけ振り返って、ナナシは密着した厚い胸を肩でそうっと押し返した。
「寝る前に読む本を選んでから失礼してもいいですか?」
受け取った中から5万リレを一枚を抜き、さらに少し距離を取るよう胸に押し付ける。
「また逃げられたな」
『ソリッド』はさして残念そうでもなく笑っていたが、しかしチクリと一言刺した。
「やっぱり、根に持つタイプですね。次は必ず」
「食事の約束もまだだ。どこか、いい店に目星をつけておく」
頬を付けあうだけのキスをして『ソリッド』はナナシをドアの向こうへ促す。
暗く冷たい階段の途中に積まれた中から一冊を取り上げ、階段の上の『ソリッド』に掲げ見せてからナナシは店内へと続くドアを閉めた。
『ソリッド』も、冷たい空気が流れ込むドアをカチリと閉じる。
ストーブの中、燃え尽きた薪がカタリとバランスを崩した。
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