マドリガーレ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
さっき食べ終えたあまりに不味いステーキの後味を洗い流すつもりで、ホルマジオはアグアルディエンテを流し込んだ。
ショットグラスより小さな杯で煽ると甘い風味が鼻に抜け、一拍置いてアルコールがジリッと口の中を焼く。
リゾットは空酒にしろと言ったが、本当は何かつまみを頼みたかった。
アルコールに体温が上がり、ダニに食われた体中がまた痒くてたまらなくなる。
しかし飲まずにはいられない。
ホルマジオは手持ち無沙汰にアグアルディエンテを飲んで、酔った。
開けっ放しのドアと窓の向こうで、薄汚れたワンピースの売女がチラチラとこちらを見ている。
肉の焼ける匂いに釣られた野良犬が入り口まで来て、痩せて血走った目の店員に箒で追い払われる。
「リーダー、何で俺だったんだ」
やや顔の赤くなったホルマジオは、空のグラスを持つリゾットの手元を眺めた。
「白い肌にカーリーヘァや金髪は目立つだろう?お前なら何とか溶け込む」
「そりゃそうだろーな。でもよォ、そういう事を聞いたんじゃあねぇ」
キャップを捻り、自分のグラスに酒をつぐ。
リゾットの方に瓶の口を向けると、僅かな残りを飲み干して献酬に応じる。
「スペイン語も堪能だ」
「だからよ、そういう」
おもむろに立ち上がったリゾットに、ホルマジオは思わず身構えた。
あまり明るくない裸電球の傘の下スレスレでリゾットは酒を飲み下す。
『俺が死んでも、お前ならイタリアに戻れる。目立たないことは重要だ』
───アンタはそんなに組織が大事か?
すぐそこまで出掛かった言葉は、チョリソの焼ける匂いが漂う路地に響いた銃声に消された。
「
タタッと軽い音の余韻の残る夜の空へ、若い女が雌鶏の声で叫びをあげる。
もう、口に残るアグアルディエンテの甘い後味さえ苦々しい。
「先に戻っていろ」
「オレは結局、何もせず仕舞いじゃあねーか」
「俺が死んだら報告の仕事が出来る」
リゾットがホテルのキーと、小さな袋を投げて寄越した。
見れば、パケにはギッチリとカナビスが詰まっている。
「オイオイ、アンタらしくもねぇ」
「世界一女とコレが安い国で、ダニに喰われただけで帰るか?」
リゾットの暗い目は冗談を言っているふうでもなかった。
「帰る前に食い切れなかったら捨てろ。
「……あいよ」
その様子を目ざとく見ていたワンピースの売女が店に入り、元々の恋人であるかのようにスリ寄った。
カエル顔の女の体からは、時代錯誤のヘリオトロウプとカナビスの煙がプンとにおった。
.