マドリガーレ
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じっとりと注ぐ太陽に全ての毛穴が開ききり、蒸し暑さに汗が噴き出してきた。
安宿のマットレスに住みついたダニに体中を噛まれたホルマジオは、ヨレヨレのTシャツの下でジュクジュクする背中をこれでもかと掻きむしる。
掻きむしった部分がまた酷い痒みに襲われて、いっそ皮を剥いでしまいたいとすら思えてきた。
「なんでアンタは刺されてねぇんだよ。皮膚も鉄で出来てんのか」
暑さも人の視線も感じていないかのような背中にホルマジオはぼやいた。
「ビニールを敷いただけだ」
先に教えてくれても良さそうなものをと内心毒づくが、リゾットにそれを訴えたところで収まるわけではない。予防はできたかも知れないが。
今更しょうがないということにして口を尖らせ、ホルマジオはチラと横目に足元を見る。
「で、何の用があって来てるのか、そろそろ教えてくれてもいいんじゃあねーの?……こんな国によォ」
───南米、コロンビア。
世界一治安の悪いこの国の中でも最悪とされる街、カリにリゾットとホルマジオは立っている。
『血の流れをよくしてこい、だそうだ』
「……へっ」
ホルマジオの問いに、それまでスペイン語で喋っていたリゾットがイタリア語で早口に告げた。
水道が文明社会の血管だとすれば、組織の血脈は白い粉の道。つまり───ンという血液の流れを良くするために、少し"間引いて"来いということ。
差し迫った民家の隙間に女の死体が詰め込まれ、こちらにハイヒールの足を投げ出している。
この国に降り立ってから、たった十七時間。これで五つめの死体と遭遇したことになる。
どの死も吐き気を催す酷い有り様、そしてそこには、自分たちがそうさせるような政治的な意味や個人的な恨みはなかった。
まくり上げられたスカートの下からハイヒールのくるぶしまで、コーヒー色を染ませた肌の上に血液が螺旋を描いている。
処女、だった、亡骸。
「どんだけ無意味に死んでんだよ」
ホルマジオが口の中でブツブツ言った言葉が聞こえたらしく、背を向けたままのリゾットは「一晩で二、三十人じゃあないか?」と、事も無げに返した。
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