ノルマ
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深く非情な傷をつけた緋色の空に、時間はやがて、静かに夜闇の幕を引いた。
細かい星々は息を殺し、月だけが古い街並みの全てを煌々と照らし出している。
足を裂くような冷気をものともしない足音が、壁と壁との隙間に響いてはバールの喧騒にかき消され、そこを過ぎるとまた一定のリズムで響き始める。
洗い晒しの髪を梳く風もひどく凍え、微かに雪の匂いさえするようだった。
「灯りぐらい点けろ、辛気臭ェ」
「来たのか」
「着替えに帰っただけだからな。仕事なら俺に回せ」
音もなく開かれた自室の扉の前に立つ者を、リゾットは咎めることがなかった。
纏まらない考えと静かな時間だけを持て余し、ノックもしない無粋な来訪者がありがたかった。
「…大丈夫か?」
「あの役立たずどもみてぇに、上っツラの下らねぇ感傷に浸れっつーのか?」
振り向きもしない背中に、プロシュートが非情な言葉が吐き捨てる。
そこでようやく、リゾットは顔を上げてドアを振り返った。
長い睫毛に縁取られたグレイの双眼はステンレスで出来ているかのように冷たく、その奥深くに潜めさせた感情を読み取らせない。
重苦しい沈黙の間を置いて、リゾットが口を開く。
「心配しなくても仕事は滞らん。───それから、『紙が虫に喰われた』」
「はっ!そっちの仕事かよ」
プロシュートはロメオ・Y・ジュリエッタの先をサクリと落として火をつけ、薄暗い部屋の方へと煙を吐き出した。
紙巻きの煙草よりずっと濃い煙が、リゾットとの間に霧の壁をこしらえた。
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