ラバー・ゲイジ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目の詰まった良質のウールは、空と同じく重い色をしている。
冷え冷えと吹く風が、ベンツの入った裾を千切るようにはためかせていた。
寒さが足を突き抜ける。
「こんな島の何がいいんだろうな」
誰に投げかけたわけでなもないプロシュートの言葉に、思いがけずしゃがれ声の答えが返ってきた。
「何って、ミテクレがいいじゃあないか。ヤツらにゃあ、それで充分なのよ」
片腕のない船長は先ほどからずっと葉巻に火をつけようとしているが、湿気ってしまっているようで火がつかない。
残り少なくなった葉巻とマッチを差し出すと、喜んで一本ずつ取り上げた。
「クラブサイズたぁ、伊達だねぇ」
「あぁ、そうか?」
シガーカッターでサクリと先を落とし、片手で器用にマッチを擦った。
フッと突風に消され、フゥンと息を付いてもう一本マッチを催促し、擦る。
自分の空間でだけ漂う匂いが他人の手元から灰の空へ散るのを、プロシュートは妙な気分で眺めていた。
「兄さん、これからドコ行くんだい?」
機嫌よさげにモウッと煙を吐き出した船長が、茶色く変色した乱杭歯をむき出して笑った。
「カプチン・フランシスコだ」
「へぇえ。ロザリア嬢に宜しく伝えてくれよ」
カプチン・フランシスコ教会。
わずか2歳で病死した少女ロザリア・ロンパルドが、彼女の殉死者のような骸骨を従え、地下納骨堂に眠っている。
『死蝋化』とよばれる現象は小さな遺体を腐らせることも白骨化させることもなく、『死んだ時のままの姿』を留めさせたまま。
世界一美しいミイラ。
そう銘打たれた少女は、自分の逝くべき未来を夢を見ただろうか。
.