蜜色の空
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「もういい」
黒いスーツの上下、それよりはいくらか明るく見えるチャコールグレーのシャツ、そして白いネクタイと白い靴。
真っ黒な中折れ帽子の下に、まるで白い髪が覗く。
両端に金髪の男を二人従えて一人掛け用の革張り椅子に深く腰掛け、悠然と足を組んで話を聞いていた男は冷たく言い放った。
座る椅子もなく立ち尽くしていた初老の男は、脱いで手に持っていた汚いハンチングを握り締める。
髪の薄くなった頭に吹き出した脂汗が、うなだれた鼻先のデキモノのところへ滴り落ちた。
「い、……いいん、ですか」
「無いモノは仕方がない」
一応の許しを得たようだったが、目の前の男が怪しい動きを見せはしないかと、ボウボウに生えた眉ごしに上目使いで盗み見る。
深く被った中折れ帽子のせいでほとんど顔は見えないが、椅子に深くかけたままの男に動く気配はなかった。
しかし、向かって左手に立っている……これも黒の上下スーツに黒いネクタイ、深いボルドーのシャツの男は、中折れ帽子のつばスレスレに覗いた目でずっと睨みを効かしている。
椅子を挟み、まるで対象の位置に立った黒い上下に……ネイビーのシャツを胸まで開け、細いタイを申し訳程度に結んで首からぶら下げた男は口元に笑いを浮かべ、やはり中折れ帽子スレスレからこちらを見ている。
「子供がハラぁ空かしてたんだろ?しょうがないよな」
ネイビーのシャツをだらしなく着崩した金髪男が、あっけらかんと言った。
しかし暗く重く殺伐とした空気は、そんなことでは揺るがない。
「オメーにゃまだ仕事が残ってる。後のことは心配しなくていいぜ」
今度は左手の男が吐き捨てた。
磨かれたステンレス玉の眼が、かすかにも動かずに睨み続けている。
革張りの椅子にかけた男が、肘置きに置いていた腕で少し上体を起こす。
初老の男はビクついたが、組んだ膝の上に指を組んだだけだった。
「いけ。五秒以内に」
男の脳が言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
時間がかかったが、理解すると同時に踵を返した。
やや丸まった小太りの背中に、ニヤニヤ男が声をかける。
「あんたも旨いもの食いなよ?ウーノ」
バン!
意味のないカウントと同時、鋭い弾丸が真っ直ぐに頭を突き抜けた。
吐き出された薬莢が落ち、コンクリートでカリンと音を立てる。
「鉛玉の味はどうだ?……って、聞いちゃあいねーか」
硝煙の臭いをさせる銃を構えたまま、ステンレス男は死体に向かって意味のない質問を投げかけた。
.