鉄の死神
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「一流のヒトゴロシが何てザマだ。殺りそこなったのか?」
寒空の下で上下する裸の背中を、イルーゾォは感情のない顔で見下ろした。
ここには温度がない。それでも、裸身でいられるほど暖かくはない。
自分の趣味趣向で着ていたわけではないパーカーを脱ぎ、わざわざギアッチョの足下に落とす。
「失敗はしちゃあいない、ちょっと……しくじっただけだ」
ギアッチョは拾い上げた服を…砂やゴミ屑は付くはずがないが…一度はたき、背中のほうへ翻しながら袖を通した。
納得したようなしないような「フン」という返事に、ギアッチョは「糞」と一言吐きだす。
呆然としたまま漂う不確かな日々が始まってから、いったいどれくらいの時間が経ったか。
それぞれが釈然としないままで意識に黒い闇の渦を巻かせ、倒れて起きあがれない状況に身を置くことも出来ず、与えられるままに淡々と仕事をこなしていた。
イルーゾォはこの状況を好んでいる。
堕落を好む
少なくとも、ギアッチョにはそう感じられた。
「これ、どうにかしてくれないか?」
体温がぼんやりと残る生地の匂いを感じていたギアッチョの目の前に、イルーソォは丸めたピアノ線を差し出し、ペンチも一本投げ捨てた。
ゴツンと音を立てたペンチの刃は欠けこぼれており、無茶苦茶に引きちぎろうとした先端部はかみ合わなくなるまでひしゃげている。
よくよく見れば『武器庫』から持ち出されたらしいコイル切りで、ギアッチョは疲れた頭を持ち上げ唾を吐いた。
「馬鹿か。専用のクリッパーでなきゃあ切れねぇよ」
ギアッチョの不機嫌そうな声にも、イルーゾォは上の空で「あぁ」と答えた。
いつもは虚勢の象徴のように吊り上がっている眉も、陰険そうに見えるこけた頬も薄い唇も、今は大きな感情の変化を露わにはしていない。
無機質な風景に溶け混じり、そのまま一枚の絵になってしまいそうな生気のない眼差し。
ギアッチョは嫌みのありったけを並べ立ててやりたいところだったが、ヒトをコロす緊張から解き放たれた脳は何も考えたくないと切望するように鈍痛を引き起こしていた。
「……ソルベならバイク弄ってるから、多分持ってる。取りに行くか」
「聞きたいこともあるしな」
壁から背中を剥がしたイルーゾォがひとつ、先に歩き出す。
続いて立ち上がったギアッチョの頬から、固まった血液がクズになって剥がれて落ちた。
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