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「お、オレッ───「あーらペッシ、こんな所にいたの?」
真っ赤な顔のほっぺたに、見慣れた色の髪がふわりとかかる。
甘いあまーい悪魔の香りが、スーリスーリとすり寄った。
「探したのよ、ペッシ。最近全然相手してくれないんだもの、寂しかったわ。……あら、こちらオトモダチ?」
そのわざとらしい節回しの物言いに、頭のテッペンへ登りきった血液が、今度はナイアガラの滝の勢いで落っこちていった。
あまりの急降下に寒気さえ感じて、ペッシの全身に鳥肌がたつ。
…人生で一番大切な局面を台無しにしたナナシの口を、出来ることなら数秒前に戻って塞ぎたかった。
しかし時間は戻らない。
…できるなら時間を消し飛ばして、ナナシがここへ来た事実を無かったことにして、次の店…いや、どこかもっとイイトコロにアニカと2人でいる『結果』だけを残したかった。
しかし時間は消し飛ばない。
ペッシは動けずに、真っ青になって固まった。
動けるわけがない。
───ナナシが喋り出すと同時、Tシャツの背中に冷たいものが突きつけられていたのだから。
アニカが、ゆっくりと口を開いた。
「…えぇ、オトモダチよ。とっても仲が『良かった』の」
それはナナシと同じように、びっくりするほどわざとらしい節回しで。
くりんとした茶色い目はナナシをちらりとも見ず、ペッシだけをじっと見ていた。
気分を害しているのは明らかだったが、深い色のリップに飾られた唇から攻撃的な言葉は何一つ出てこなかった。
「
奢る約束などなかったが、アニカは会計をペッシに押し付けて立ち上がった。
コートの腕がアメリカ産ビールの木製看板を乱暴に跳ねさせ、すらっとした足を支えるパンプスが苛立たしげな音で階段を降りていく。
「あ…、あ…、」
あまりの展開に着いていけなくなったペッシは、とにかく今自分がフられたという事実だけが理解出来ていた。
「ナナシー!!」
もう絶対に手の届かないところまで足音が去っていってから、ペッシは諦めと怒りに全身を震わせ雄叫びをあげた。
突然立ち上がったペッシの丸い背中から、わざとらしく驚いたように飛び退いて、
ナナシは両手を上げた降参のポーズをとる。
…銃なんか持っちゃあいない。
持っているのはリップグロスかマスカラか、とにかく丸いプラスチック製の筒状のコスメひとつ。
こんなものに脅えたのかと、こんなもののために全てがおジャンになったのかと思うと、ペッシは情けないやら悲しいやら悔しいやら腹が立つやらで、ヘナリと床に膝をついた。
「ペッシペッシペッシよぉ、抜け駆けはズリィんじゃあねーか?」
跳ね戸の向こうから赤毛の坊主頭が顔を出し、これでもかというほど笑いながら入ってくる。
確実に共犯、もしくはこのホルマジオが言い出したに違いなかった。
しかも笑っている。
2人とも、泣きそうなペッシの肩をバンバン叩いて大爆笑している。
これもただの悪戯の範疇だと言うのなら、
「あんたらホントに最悪だァア───!!!!」
ピカピカ光るネオン管を仰いで、くずおれたペッシはついに叫んだ。
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