クライド
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いつも歯を剥き出して笑うホルマジオがうつむいて青ざめ、感情のない、まさに死人のような顔で立ち尽くしていた。
刈り込まれた髪にも顔にも飛んだ血しぶきが赤錆色に変色し、そのままの形で張り付いている。
人ひとりが流すにしては、多すぎる血液。
自身の能力でごく小さくなり、野良猫や野良犬、溝鼠に怯えながら途方もない距離を歩いて帰還したのだろうと想像できた。
ナナシの目の前で服や手袋を脱ぎ捨てると、錆色の飛沫は首から上だけになる。
普段日に当たらない引き締まった胸や腹も、ラテンの血がわずかに混じる、うっすらと日に焼けたような色をしていた。
真裸で、ホルマジオはナナシに向いて立つ。
死人と同じ顔の真ん中で鋭く光る両眼だけが、生の力を持って、じっとこちらを睨み据えていた。
狂気じみたその光景に、ナナシは体を強ばらせた。
『人殺し』を目の前にして、本能が警鐘を鳴らす。
得体の知れない感情を抑えきれず、持て余し、未だ収まらない殺意が自分に向けられるような気がした。
「……悪ィ」
力なく言ったホルマジオは、綺麗に筋肉の付いた背を向けてバスルームへと入っていく。
「ホルマジオ!」
目の前で閉まりかけたバスルームのドアに、ナナシはすかさず手を入れた。指なんか挟んでしまっても構わなかった。
「……出てけ」
ほとんど冷水に近いシャワーを頭からかぶって、ホルマジオは両手で顔をガシガシとこすりはじめる。
こびりついた血がゆっくりと溶け、流れる水は生臭い匂いを帯びた。
ナナシは息を詰め、硬く大きな背に頭を持たせた。
ごく薄い血を混ぜた水は、頭を伝って頬にも鼻にも流れ、耳にも口にも入ってくる。
「ジャマ」
「うん」
「濡れンだろ」
「いい」
「……しょおがねぇ、な」
抱き合ってしまえば簡単な話なのだと、よく解っていた。
本能に従って『そういう手段』で発散するのが手っ取り早い方法だと理解していた。
互いを繋いでいた『絆』のようなものは、電気信号と同じように意志だけを疎通させる。
ナナシが手を伸ばせない。
ホルマジオが振り返れない。
互いを繋いでいるものは、これ以上の接近を許さない有刺鉄線だったと、二人は今更気が付いた。
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