ウラガワ
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「夜からカジノか?休みゃあいいじゃねーか」
「いっひゅうかんも店を休んらのよ。今日レ(出)なひゃクビになっひゃう」
「は?何言ってんのか解んねぇから終わってから喋れよ」
口に歯ブラシを突っ込んでいる人間にモノを尋ねるホルマジオのほうが悪い。
イイッとした前歯をシャカシャカ磨き、ナナシは蛇口を捻った。
「ッ…プは、今日はトランプ切ったり玉投げたりしないの。パーティーだから」
「へぇえ。で、その安物のネックレスは付けっぱなしで行くのか?」
「あ、忘れてた」
ナナシは首にかかった皮紐の片側を引いて、前に持ってきた結び目をスルリと解いた。
くるくると紐を指に巻き、洗面鏡の前に置く。
「さァて、次は誰をハメてやるよ?」
「フフ、目星はつけてあるの。度肝を抜かれるような方法もね」
「しょおがねぇヤツだな!教えろ」
「まだ内緒」
何か思い出してクスリと笑うナナシの瞳に、ちらりと光が反射した。
よく眠れたと見えて、白眼は薄い翡翠の色にまで澄んでいる。
「じゃあね、しばしのお別れよクライド」
「あぁボニー、オレを置いて行かないで!」
色褪せたフィルムの奥で煌めいた銀行強盗の恋愛劇、スクリーンの恋人たちと同じようにキスを交わしてナナシはホルマジオの脇をすり抜ける。
ナナシの自室のドアが開いて閉まり、かかとの鳴る音がすっかり消えてしまってから、ホルマジオは鏡の前に置き去りにされた青い百合を手に取って眺めた。
薄々感づいてはいたが、間近で見たこのいびつさはとても売り物とは思えない。
売り物とは思えないこの絶妙な色合いとフォルムは、ナナシ以外の全てをを拒むほどによく似合っている。
いつから付けていたかは解らないが、とにかくいい気はしなかった。
「…口実つけて新しいヤツ買ってやっかな」
身に着けるものに執着する女性の厄介な習性を「しょおがねぇな」と片付けて、もとのとおりに首飾りを戻す。
唇に残るミントの冷たい味を、ペロリと舌で舐めとった。
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