ナイフのはなし
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そのあたりで食事をとるのもいいと思って出てきたはいいが、こう天気がいいと買い物客も多く、なかなかに席が見つからないものである。
暑すぎてテラス席に座る気になどなれず、ウロウロしているうちにシエスタの時間にかかり、開いている店は限られてきた。
「あぁ~腹へったな」
「うん。でも、どこもいっぱいだね」
マダム達はデザート代わりの甘いカプチーノを口に運び、おしゃべりに夢中。別の席では真っ黒に日焼けしたオヤジが顔に帽子を乗せ、午後の仕事開始時間までウトウト。
そんなだから、いくら待っても席は空きそうにない。
「ギア、どうする?」
「あ、あぁ。そうだな」
「ちなみに、夜はペッシが釣ってきた魚だよ」
時々、彼女が『ギア』と呼ぶのを、ギアッチョは何かじらされているような気恥ずかしいような、複雑な気持ちで聞いた。
もちろん、悪い気はしていない。
「とりあえず、coop行くか」
パネッテリアの店先で売れ残っていた丸パンを2つ、coopでチーズとドライサラミ、セブンアップを2本買う。
市場の奥でやはりウトウトしていた老婆を起こし、トマトをひとつ買ってついでに洗ってもらった。
「公園でいいだろ」
「うん」
いつだか夜中にドボンと落っこちた噴水の端に座って、ギアッチョはナイフを取り出した。
横に切りこみをいれたパンに、ドライサラミもチーズもトマトも手の上で削るように切って挟む。
「トマトの汁を垂らすなよ」
云いながら手渡すギアッチョの膝に、反対の手で持っていたサンドイッチから汁が落ちた。
「いただきます!」
ペッパーがかなり効いているサラミのおかげで、チリやバーベキューソースなんかがなくても充分美味しかったが、
「もう少し塩気が欲しいな」
ギアッチョは口にパンを入れたままモゴモゴ言った。
「なら、塩気の強い『生ハム』でも良かったかもね」
口の中のものをング、と飲み込み、眉根をよせて彼女にぐっと顔を近づける。
「こんな時まで『アイツ』に割り込ませねぇよ」
キョトンとしている彼女の口元のパンくずを指先で払い、ギアッチョはセブンアップをゴクリと飲み込んだ。
「そのナイフ、私のとお揃いだね」
サラミとチーズの油分と、パンくずとトマトの汁がついた細いナイフの柄は、彼女の小銃のハンドルとそっくりにツヤツヤと輝くモスグリーン。
「あー、クソっ」
ギアッチョはそっぽを向いて、残りのサンドイッチをムグムグ口に押し込んだ。
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