ボーナ メランダ
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赤いデルビがパーンと跳ねて、ハイウェイで真っ二つ。
大好きだった太いマフラーともサヨナラで、オレは産まれたてのベイビーみたいになすすべもなく、背中から草むらへ落下。
それが何時間前のことだったかも解らないくらい、ただ足を前に出し続けて何とかアジトに辿り着いた。
開けた扉の中から流れ出す、甘ったるいオレンジの匂い。
キッチンに立つナナシとペッシが何か作っている。
「お帰りメローネ」
別にここに住んでいるわけじゃあないのに、何のつもりで「お帰り」だなんて言うんだろうか。
気持ち悪い。
「―…ただいま。なに旨そうなもの作ってるんだ?」
あぁ、馬鹿馬鹿しい。
たった今、朝のサンドイッチが胃液に混じって苦い味で出て行ったばかりだというのに。
「ちょっと季節はずれだけどね、カーニバルの…」
「あぁ、『チェンチ(ぼろ雑巾)』じゃあないか」
───しまった。と思ったときには、遅かった。
バニラの匂いのする粉砂糖を振りかけていたペッシが顔を上げ、目を丸くしてオレを見る。
「メローネは」
次に続く言葉は想像できた。『トスカーナ生まれなのか?』
しかしそれより早く、言いかけたペッシの足をナナシが力いっぱい踏みつぶした。
「ギャア!」
「あ、ごめんペッシ」
ひでぇなぁ。
きっとナナシは今日も鋭いヒールの靴を履いているんだろうに。
皿に乗った……スフラッポレだとかキアッケレだとか沢山名前のある菓子をテーブルに運んでから、ぼけっと立っていたオレにタオルとレモンを絞ったペリエを持ってくる。
「無理に食べなくていいからね?」
よく考えたらぼろ雑巾みたいなのはオレの方じゃあないか。
頭には乾いた泥が草と一緒に張り付いて、おととい買ったばかりのジーンズは一瞬でどこにも売っていないダメージ加工済みだ。
ナナシから取り上げてゴクリと飲み込んだ炭酸水は、むせかえるほどレモンが強すぎてほとんど床に吐き出してしまった。
ひとしきり咳き込んで少し喉が楽になってから、オレは顔を上げた。口からも鼻からもダラダラと得体の知れない液体を垂らしたまま、そのままで。
「洗ってあげるから、バスルーム行こうか」
液体が流れていたのは、鼻と口からだけでは無かったらしい。
あーあ。立て続けにこんな凡ミスやらかすなんて、やっぱり今日はツイていない。
観念して顔を埋めたナナシの柔らかい胸は、よく解らないけど、これがマンマの匂いなんだろうと思った。
「……やらしい事していい?」
「内容によるわ」
こんな時だけは甘やかすなんて、つくづく嫌な女だ。
撫でられた頭からパラパラと土が落ちて、吐き出した床の炭酸水でまた泥になった。
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