シガー アンド ダイナマイト ショウ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
国境はない。
見境もない。
タイミングを計ることはあっても、頓挫することはほとんどない。
ジャンルもパターンも一定ではないし、おおよそ法則というものは存在していない。
そして、悪意があるわけではない。
ナナシとホルマジオが企てるイタズラは誰の目から見ても秀逸で、喰らった本人以外がつい「引っかかる方が悪い」などと援護してしまいたくなるようなものばかりだ。
でも、2人の中でルールはちゃんと決まっている。
ジョークの効いたものであること。
任務に関わらないこと。
反撃に対する反撃をしないこと。
スタンドを使わないこと。ただし逃亡する時は別。
暗黙のルールの中には以下のものが含まれる。
『プロシュートとリゾットに手を出さないこと』
……これは単純。
『命に関わるから』だ。
そして成功の暁には決まったバールの安酒で祝杯をあげる。
しこたま飲んで楽しく酔いつぶれて、翌日はターゲットにした者と摂取しすぎたアルコールから手ひどい反撃をくらうのだ。
きっかけは、ギアッチョがテーブルに放置したキューバ産のロイヤルハバナ。
時々プロシュートもこれを吸ってはいるが、彼の性格上、煙草は上着の内ポケットが所定位置。
置き忘れられたパックからナナシがおもむろに一本を取り出し、ホルマジオにゆらゆらと振って見せた。
アイスピックを使って紙を破らないように注意深く葉をパラパラと出し、ホルマジオが差し出した爆竹を一本入れる。
ティースプーンで葉を詰め直し、細めのアイブロウペンシルの背でうまいこと押し込んでいく。
何事も無かったかのようにピンと背筋を伸ばした煙草を、トントン、と軽くテーブルに叩いて葉を馴染ませパックに戻した。
次に彼がアジトに顔を出すのはいつだろうか。
自分達がいなくても、指先で破裂した小さなダイナマイトに口汚い悪態を連呼するギアッチョを想像するだけで2人は充分だった。
――カチャリ。
ナナシがミスコピー紙の上に残った証拠を隠滅したところで、自室にいたらしいリゾットが出てくる。
体から微かに火薬の匂いがするのは、銃か何かの手入れをしていたからだろうか。
「コーヒーを入れてくれるか?」
ソファに腰を沈めたリゾットはぐっと目元を抑えて言った。
ナナシは立ち上がり、キッチンで冷めてしまっていたコーヒーをざっと流して新たに豆を計る。
ポットを火にかけたところで、プロシュートがイライラしたような足音を立てながらアジトに帰ってきた。
「散々だったぜ、我らがリーダーよ」
無造作に投げられた帽子は自分が帰るところを知っているかのように帽子掛けに引っかかって一度クルンと回る。
ぐいと襟元を緩め息をつくプロシュートにリゾットがソファをすすめた。
「ナナシ、俺にも」
立ち始めた良い香りを嗅ぎ取ってキッチンに声をかける。
「用意してるわ」
スプーンの中の角砂糖にブランデーを垂らし、しばらく火をつけてコーヒーに沈めた。
ソファの背に後頭部を乗せて喉を晒す無防備なリゾットと、脱いだ上着の内ポケットを探るプロシュートの所へコーヒーを持って行く。
鼻先に漂った微かな酒の香りに、いち早くリゾットが気付いた。
「……ロワイヤルにしたのか?」
「気が利くな」
普段濃さや豆の種類にうるさく、ブラックでばかり飲む2人が揃って口をつけ深く息を吐いた。
リゾットがポケットから出した煙草のパックを数回振り、中身が無いと確認してグシャリと丸める。
上着を探っていたプロシュートの煙草も切れていたらしく、同じように箱を握りつぶしてゴミ箱へと放った。
金属製の円筒に響くガランという音に雑誌をめくっていたホルマジオが顔をあげると、2人はしばしの繋ぎにとテーブルに置かれたロイヤルハバナに手を伸ばしているところだった。
焦ったホルマジオがナナシの姿を探すと、いち早く危険を察知したらしくすでに玄関まで出ている。
「「ナナシ、煙草」」
「……ハーイ」
ホルマジオは飛び起き、急いでナナシの後を追った。
───バタン!!
「やばいやばいやばいやばいどーしよー」
「とりあえず逃げるぞ。射程外までは振り返るなよ」
アジトの外で早口に言う2人は、既に何百メートルも全力疾走したかのような呼吸に嫌な汗をダラダラとかいていた。
「今日のお酒は美味しくなさそう」
「バカ、酒が飲めたら泣いて喜べ」
自分の耳で解るほど、心臓は早く大きな音をたてている。
「「よーい…………」」
パァン!!
ドアの向こうから聞こえた軽い破裂音と共に、2人の逃亡劇がスタートした。
20081114
1/1ページ