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「ねぇブチャラティ、浮気の境界ってどこだと思います?」
「考えたことも無かったが。何か心配なことでもあるのか、フーゴ?」
「そういうわけじゃありませんよ。何となくです」
「そうだな、キスをするとか……。実際どうなんだろうな」
「そうですね──────」
───
──────
────────────
彼女とはピッツェリアで会ったのが始まり。
よく見かけるなとちらちら気にしていたら、ちょっと混んだ日に店主がいらん気を利かして同席にしてくれた。
それからは会うたび、オープンテラスの同じ席でピッツァを食べながら他愛もない話をするようになった。
もちろん、約束をしているわけではないから会わないことも多い。
お互いプライベートには触れなかったが、映画の話や音楽の趣味が合い会話には事欠かなかった。
最初は可愛らしいと思ったんだが、間近で見るようになってからは綺麗だと感じるようになる。
彼女はいつもマルゲリータとオレンジジュースかグレープフルーツジュース。
指についたオリーブオイルを舐めとる仕草が少しだけ色っぽいんだ。
「もしナナシが嫌じゃあなかったら、今度は一緒にチェーナでもどうだい?」
「あら素敵ね」
そんな会話に店主が「なら、その日だけは夜まで開けてやるよ」だなんていらん口を挟むもんだから、彼女は「他の店に浮気させないつもりなのね」と笑った。
ナナシと話しているととてもホッとする。
ギャングとして気を張る必要もなく、同年代の友人として、とても貴重な時間を過ごしていると思えた。
ギャングであるということは、いずれ知れること。
それを今あえていう必要もないと思ったからこそ、他のメンバーには何もいわずにここに来ているのだが。
2人とも食事を終えて立ち上がり、また約束もなく「それじゃあ、」と声をかけあった時だった。
踵を返したナナシの足に、隣の席の夫人が連れてきたマルチーズがじゃれついた。
バランスを崩したナナシの手をとっさに掴む。
「ありがとう、ブチャラティ!」
ほっとした顔で礼をいうナナシに、ドキリとする。
ごく自然に繋いだときのような形で手を握ったまま、
ナナシに見入ってしまっていた。
「ブチャラティ?」
声をかけられてあわてて手を離す。
「いや、何でもない」
「そう?じゃあ、また」
手を振り歩き出した彼女の背中が、いつもより素敵に見えた。
あぁ、そういうことか。
「そうですね、たぶん浮気は『手を繋いだときから』なんです」
「手を繋ぐと、心が動くから───ですよ」
ナナシを呆けたまま見送りながら、あの時のフーゴの話を思い出す。
おせっかいやきの店主がニヤニヤこちらを見ているのにも気付かずに、ナナシの連絡先も聞かず、ちゃんとしたチェーナの予定も入れなかったことをとても後悔した。
20081017
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