ロジャア
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空は完全に明るくなり、街はまた忙しなくいつもの朝を始める時間になっていた。
地下カジノから地上へ出る階段は二つある。
従業員と搬入専用の、いわば『裏口』の階段を登りきった所で、男はディーラーの女を待っていた。
「お待たせしました、ソリッドさん」
「あぁ。待ったな」
『ソリッド』と呼ばれた男は、流れるような仕草で自然に女の……ナナシの肩を抱く。
「君がこんな仕事をしているとは思わなかった」
「最近始めたんです。私もソリッドさんとここでお会いするなんて思ってもみませんでした」
最初は、うらびれた古書店でよく見かける顔、というだけだった。
ふとしたきっかけで話すようになり、本をきっかけにクレメリーア(アイスクリーム店)へデートしてみたり。今度は奇妙な縁が働いたようで、ナナシがルーレットの球を放るカジノへ、『ソリッド』が現れたのだ。
「そういえばお前は覚えていないだろうが、こうして抱くのは初めてではないな」
「えッ!?」
愉快そうに笑った『ソリッド』が、優しい手付きでナナシの髪に指を通す。
「勘違いするな。前に、うちの店で脚立から落ちたことがあっただろう?」
「あ、あぁ!」
それはナナシがこの街に来てすぐ、ずいぶんと前の出来事。
そんなことを覚えていられるほどあの店には人が入っていないのかと、つい余計な心配をしてしまう。
「あそこは繁盛していないが、もともと
心中察するという視線をしてしまっただろうか、とナナシは肩をすくめた。
「さて。『今夜』はとっくに終わってしまったな」
「フフ、ばれていたんですか」
賭けたのは『今夜一晩』。
カジノが閉まる頃は、とうに期限が切れているという寸法だった。
「気付いていたならなぜ?」
「朝食にでも付き合ってもらって送り返すのも悪くないと思ったんだ」
随分と遊び慣れているのか、本当に何もする気が無かったのか。
冷えた朝の空気の中、ナナシは自分から『ソリッド』の胸に体を寄せる。
「じゃあ今日は朝食を。あらためてチェーナに誘ってくださいます?」
「そのつもりだ」
クツクツ笑いあう二人の足は、早朝から開いているバールへ向かっていた。
フランス人夫婦がやっていて、主人が焼くクイニ・アマンと、夫人こだわりのハーブティが美味しい店。
そっと絡めた腕を少し引き寄せて、ナナシは『ソリッド』を見上げた。
「またクレメリーアも」
弱点を知られている男は、困ったように笑う。
『ソリッド』……いや、カジノの総元締めであるディアボロは、今夜の勝負で一リラも動いていないのを知りながら、まぁまぁ楽しめたから良しとした。
もちろんそれは、ナナシの知るところではない。
20090204
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