『"th"』
名前変換
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「違うって。もっと素直に発音してみろよ」
「シュ、スュー?ん?」
「"ッス"だって」
ソルベとジェラートに挟まれて、ナナシがケータイを片手に何か言っている。
「舌は歯の間にいれなくていい」
ソルベが顔をしかめ、舌をイッと噛んで見せる。
「一気に"ユー"に流れ込むからだろ?」
ジェラートがナナシの口に指を突っ込み、舌を固定する。
「これでも発音できる筈なんだ。言ってみな」
「" I miss you "?」
「惜しい!」ソルベがバチンと指を鳴らす。
「何で語尾上がるんだよ」
「" I miss you "」
ジェラートの指をくわえたまま、ナナシは合格ラインの発音をする。
「そうそう」
「さっきから何やってんだ?」
ひとしきりレッスンが終わり、ソルベがナナシの頭を撫でたところでプロシュートは声をかけた。
「ナナシのとこに来たメールが、英語で一言だったんだよ」
ジェラートがナナシの口から抜いた指で「1」を作り、少しついたリップを眺める。
「でね、意味をド忘れしちゃってソルベとジェラートに聞こうとしたら」
「何回言わせても舌噛んじまうんだよな」
「"th"」と舌を噛んで発音して見せ、呆れたように笑いながらソルベがナナシの頬を引っ張った。
「で、誰なんだ?お前に英語で"君がいなくて寂しい"なんてメールを寄越すヤツは」
ソルベとジェラートの爬虫類のような目とナナシの見開かれた目がプロシュートに向いた。
「……友達?」
「何で語尾が上がるんだよ」
ジェラートがさっきと同じことを突っ込んだ。
「……ダセェ!」
男はケータイをビルの断面にポイと放り投げる。
重力に従って落ちていくはずのそれは、万物の法則を全く無視して空間に留まった。
「───会いてぇ」
こればっかりはどこにも留めておけないと、晴れた空を見上げて煙草に火をつけた。
20081110