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傷の程度を考えれば、少女が目を開けたのはまず奇跡としか言いようがなかった。
頭蓋の損傷と肺挫傷。
致命傷に加えて、ルチアーノが与えた『トドメ』。
焦点の合わない目で木の天井を見る少女の中で、奇妙な力が動き出していた。
焦点の合わないまま手を見れば、ゴワゴワと黄ばんだ麻の袖に、たしかに血が染み込み乾いて付いている。
指の先からずっと視線を移せば、二の腕の部分には、施設の名称と整理番号が刺繍されているのが逆さに見えた。
たったそれだけのことが、少女の胸を絶望と安堵でいっぺんに満たしてしまう。
───たしか。
いつもより深い眠りが、臍をえぐり取られるような痛みで目が覚めた。
意識が冴えるにつれ腹の奥は徐々に痛みを増し、その痛みでまた意識は冴えていく。
焼けた鉄を腹に突き刺したような痛みが襲いかかり、簡素な寝台から転げ落ちた。
言葉にならない悲鳴を呼吸とともに吐き出しながら、のた打ち這いついたのは部屋の隅の薬棚の前だった。
涙で歪む視界の先の引き戸に手を伸ばすと『morfina』と書かれた瓶が手に触れ、落ちる。
「頭痛のお薬なのよ」と、シスターが時々飲んでいた。
痛みに力の入らない手は脂汗ですべる。それでも何とか開け、中身を片手に半分飲み込んだ。
───しばらくのた打つうち、魔法のように痛みが消えた。
痛みが消えてしまうと、突然襲われた痛みの理由、それが消えるほどの効力を持った瓶の中身が急に恐ろしくなる。
冷たい木の床から体を起こし、決して出ることを許されなかった囲いの外へ、少女は這い出した。
薄く雲がかかった月が、頼りない明かりを木々の隙間に分け与えている。
朦朧とする意識と、すり減る体の感覚を取り戻すように立ち上がり、駆けた、つもりだった。
精一杯の速さで足を前に出し続けて、息が苦しくなって来たとき。
突然、目の前に二つの光が飛び込んだ。
飛び込んだのが自分の方だなんて考えが及ぶ間もなく、『息絶えた』
───のは、
夢だったのか?
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