クラフト・ワーカー(ズ)
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『貸衣装の弁償に結構な額を払わされた。でも、ベニスは本当にいい所だ。ナントカって小説家が、パリやベニスが素晴らしすぎてニューヨークになんか住めない、って言った気持ちがよく解るよ。
ずっと探してたものも見つかったし、いい旅になった』
書き終えた手紙と何枚かの写真を封筒に入れ、封をする。
「……そうだ」
無造作に置いた写真の一番上のものを取り上げ、彼は緩んだ顔で眺めた。
現像を終えた写真の一枚に偶然写りこんだ彼女の姿を発見した時、それはもう、躍り上がるほど喜んだ。
運命だと思った。
神の寄越した奇跡を信じた。
「イエス!イエス!」と叫んで足を踏み鳴らし、写真を胸に抱きしめてベッドに転がってキスをした。
下の部屋からの苦情を伝えに来たベルボーイに抱きついて、そいつにもキスをした。
それを新聞の上に置き、ポケットから小型のナイフを取り出す。
古い懐中時計の文字盤のサイズにだいたい合わせて、彼女をぐるーりと丸く切り抜いた。
時計の蓋の裏には、家族の写真。
時計の元の持ち主、もう死んでしまった祖父。
ボケてしまって今は施設にいる祖母。
今より若く、仲がいいとばかり思っていた父と母。
まだ幼かった兄と弟と自分。
ナイフの先に引っ掛けてそれを外し、彼女の写真をはめ込む。
しばらく見つめて、古い家族写真をその上に戻した。
下にしかれた一昨日の新聞の薄いページが数枚、同じように丸く切れていた。
カーニヴァルの日ヴェネツィアで死んだ外国人司教の話題が、ナイフで切れていた。
thee end
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