『3104丁目、温泉』
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───昔話が長くなったが、なんやかんやと仲良く(?)やっているらしい衿乃屋のコタツに、場面を戻そう。
「あー。オレ硫黄のトコは駄目。かぶれるから」
ケータイから自分が制作・運営するエロサイトをチェックしていたメローネが身勝手な意見を差し込んだ。
この寒いのに、裸がほとんど透けて見えるオーガンジー素材のシャツ一枚で、結局寒いのか、体を丸めてコタツに密着している。
「草津は硫黄だったか?伊香保はたしか大丈夫だったはずだが」
テレビ台の下に突っ込んであった何年も前の『るぶぶ群馬』を引っ張り出し、リゾットがパラパラとページを捲る。
「折角だから温泉街のストリップ見てみたいなぁ。あるかなぁ」
「草津に比べたら、そっち方面は廃れてるからな」
トロンとした目で楽しげに語るメローネの助平な発言に、リゾットは律儀に索引の「ス」の項を指で追い始める。
ウエっとえづく仕草をしながら、ホルマジオはどうぶつの林から顔を上げた。
「やめとけ、やめとけ。今どきの温泉ストリップなんざァ、しなびたババァしか脱いでねェよ」
「差別はいけないなァ、ホルマジオ。いいかい?ペッソリ垂れ下がった乳、カッサカサに粉ふいてる肘と膝、妊娠線のあるたるんだ腹、シワシワの腕に足、ダルッダルに下がった尻……それこそが温泉ストリップの醍醐味じゃあないか!」
メローネの熱弁に、ホルマジオの喉から、今度は『フリ』ではなく、本当に何かがオエっと上がってきた。
一度で五人分は茶を入れられる大きなサイズの急須でお茶を運んできたナナシが、皆に今年の一番茶を入れる。
いち早くホルマジオに渡して、甲斐甲斐しく背中をさすってやる。
リゾットの膝の上で開かれる『るぶぶ群馬』を、メローネとプロシュートが両脇から覗きこむ。
「近場にスキー場は無かったか?」
ピースの缶からノンフィルターのそれを一本取り出して火をつけ、プロシュートは横から手を伸ばして数項先を見ようとする。
「兄貴、最高にスキー上手いですからね!」
ペッシはキラキラと目を輝かしたが、ホルマジオとギアッチョはちっとも賛成ではないという迷惑顔。
それもそのはず。
タンスの奥の行李にしまってあるプロシュートのスキーウエアときたら、バブル期まっただ中に買った、デジタル風の幾何学模様が描かれたオールインワン(つなぎ型)の、それはそれは年代物のダサi……クラシカルで個性的な代物で、なまじスキーが上手いだけにゲレンデで悪目立ちしてしまう。
銀世界でウィンタースポーツを楽しむ姿は、スキーブーム絶世期の若者そのままだったが、海女さんが使う水中眼鏡か!と思われるサイズのギラギラしたゴーグルを、ボンボン付きの、これもだいぶ派手で時代錯g……センスが暴れだしたデザインのニット帽のほうへ上げて、嬉しそうに手を振る彼を、ペッシ以外は気づかぬフリで無視をした。
体型が変わらないのと技術があるせいで、年数回しか出番のないウエアは全く痛まない。
痛まないかぎりは買い換える必要なしと、毎年気持ち悪i……十数年前はさぞかしナウなヤングにモテモテだったであろうデザインのそれをしつこく毎年着ては、銀世界にシュプールを描きに行く。
もともとの運動神経の良さでさっさとスノーボードを極めたギアッチョとホルマジオは、雪山フィルターとゲレンデシチュエーションのおかげでイケメンオーラが5割増なのだが。
ようやく釣れた可愛い女の子たちが苦笑いで逃げ去るのは、どう考えても『バブルスタイルのオッサン(顔はほぼ見えない)』が向こうから大声でこちらを呼ぶせいだ。
「スキーならシーズンパスを買って湯沢。せっかくだ、日帰り温泉をハシゴしろ」
三年連続でギアッチョとホルマジオに泣きつかれたリゾットが、責任をもって話を軌道に戻す。
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