『3104丁目、黒井』
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
晩酌組の膳の前には、ネギ味噌と納豆を挟んだあぶらげがこんがり焼かれて鎮座する。
残りはがんもと大根と一緒に煮含められて器に山盛りにされ、大きな丸ちゃぶ台の真ん中にドンと置かれた。
メンバーをぐるりと見渡したリゾットが箸を取って手を合わせ、「いただきます」と声をかけるのに皆が続いた。
静かなのはそこまで。
途端に皆が好き勝手に喋り出し、リゾットに今日一日の報告、おかずの取り合い、チャンネル争いを始める。
「あっれ?ホルマジオは?」
「番台だ。猫置いてった」
リゾットからリモコンをひったくってチャンネルを野球中継にしたプロシュートが、あぶらげに七味をパラリと振った。
腹いせなのかリゾットがそこに箸を伸ばしてさっさと口に入れ、四リットル入り大ボトルの『大五郎』を湯飲みに注ぎ足して煽る。
プロシュートはヨッコイショと持ち上げた『大五郎』を自分も注ぎ、リゾットの反対隣へドンと置いた。
「俺が行くって言ってるのに」
残念そうに言いながら、メローネがふっくら炊かれた大根をハフハフやった。
「アンタが行くと中高年の奥様方が色気づいちゃうの!女湯の脱衣場ずーっと見てるンだから」
「結構な事じゃあないか、ボケなくて」
「何言ってンのよ、年中色ボケのくせに」
ソルベとジェラートは正座で姿勢を正し、模範的な箸使いで綺麗に食事をしていた。
……通りに面した側の隣、ホルマジオが『番台』に座りに行っているのは、この家の大家さんがやっている銭湯『衿之屋(えりのや)』。
もともとは戦地から戻った兵隊さん向けに、戦後間もなく女将が女手ひとつで開業した木賃宿だった。
今は湯屋と下宿が分離し、素性の知れない男六人と女一人、オカマ一組と変態一人の計十人を住まわせている。
その時のなごりで『衿之湯(えりのゆ)』ではなく『衿之屋(えりのや)』として絶賛営業中。
風呂なしの借家やアパートに住まう近隣住民、また、薄まりつつある『裸のつきあい』を提供する場として愛され続けていた。
だれも口には出さないが、見る角度によって傾き気味の煙突がちょっとだけ怖いと、みんなが思っている。
「あっツ!」「ンギャァ!」
対角線に座ったイルーゾォががんもに噛みつき、飛び出した汁の熱さに悲鳴をあげる。
猫が同じように体を飛び上がらせた。
二日に一度は必ず起こる事態にだいたいの予想ができたペッシが、やれやれ、と台拭きを持ってくる。
涙目のイルーゾォは煮汁を垂らす唇にティッシュを押し当て、濡れた膝を台拭きでゴシゴシと拭った。
.