『3104丁目・VS』
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僕は『皆が幸福に暮らせる新しい世界』を目指すため、偉大なる師の御言葉を広めんと日夜努力を惜しまない。
しかし、この国は。いや、世界は歪んでしまっている。
正しい言葉に耳を貸さず、尊い教えをあざ笑う。
なんとあさましいことだ!
それでも僕は負けない。
だから、今日も。
「黒井」とかかれた表札の前に立ち、チャイムを押した。
ピィイン、ポォウゥ……ン
「キャアッ」
変なチャイムの音と、女の子の悲鳴がほぼ同時に聞こえた。
少しして、キッキッと木の軋む音とパタパタっと軽い足音が近づいてきて、ガラララッと戸を開ける。
ズッギュウゥゥウン!
かっ可愛い!
出てきた女の子は、それはもう、通好みっぽいトコが逆にそそるとか、雰囲気イ~イじゃんよォ~を通り越して、僕という人生の、まさに人類の夜明けそのものだった!
怪訝な顔をする彼女に「どうかしました?」と声をかけられ、断絶していた回線がようやく繋がった。
そうだ、僕に託された使命を忘れてはいけない。
「あっあの!僕は『皆が幸福に暮らせる新しい世界』を」
いつもと同じ切り出しで、師の尊い御言葉が分かりやすく記されている配布用の教典を差し出す。
……ここで嫌な顔をする人は非常に多い。
しかし彼女は、それは嬉しそうに顔を輝かせて冊子を受け取ってくれたのだ!
「これ、いただいてもいいんですか?」
「もっもちろんです!」
手渡そうとした指が少し、ほんの少ーしだけ彼女の手に触れた。
まずい、ドキドキしてきた。
「あの、ごめんなさい、今ちょっと取り込んでいて」
「あッ、お忙しかったんですか?ま、ま、また来ますッ!」
ニッコリ笑う彼女に、治ったはずの過呼吸が再発しかかっているように喉と胸が苦しくなってきた。
でも、また来よう。心の綺麗な彼女なら、きっと解ってくれるから。
淡い期待を抱きつつ、僕はまた出直すことになった。
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