『3104丁目、落日』
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ダルマストーブの上で大きなヤカンが蒸気を吐きながらシュンシュンと音を立てていた。
「あぁ、今日は組の忘年会だったな」
リゾットが焙じ茶をすすりながら今年最後の一枚になったカレンダーのドクロマークを見上げる。
去年末に酒屋からもらったこれは、でかでかと富士山が上半分を占め色気のカケラもない。
それでも、余白と数字が大きく見やすいという理由から皆の予定がびっしりと書き込まれ、この一年襖の前を占領していた。
「え~、今日だったっけ?行きたくないなぁ」
「ポルポのデブのご指名だ。我慢して出ろ」
「あ~、あの巨体幹部ね。先月スッポン食べに連れて行かれたからいいじゃん。生き血のワイン割り飲まされるわ鍋からスッポンがコッチ見てるわホテル連れ込まれそうになるわ夜は眠れないわで大変だったんだから」
思い出しながら、ナナシのテンションは急降下していく。
「それは俺が朝まで付き合ってやっただろ?」
長いフィリップモリスに火をつけたプロシュートが煙を吐き出し、ズズズと茶をすする。
「いや、それよりピンサロの呼び込みやってるのがいるじゃん。いっつも鼻グズグズいわせてる」
「ハナミズ野郎のルカだろ?」
ホルマジオがプロシュートの手元に向けてミカンの皮をプシッとやった。
パチパチッと火種がはじけてすぐにおとなしくなる。
「デブ幹部もだけどアレのがしつこくて困るのよねぇ」
「あんな下っ端が来るかよ」
プロシュートが素早くミカンの皮を取り上げ、ガードが間に合わなかったホルマジオの顔に向けて二つに折った。
「テメーにもかけンぞ!」
「ってェー!かけてから言うな!ったく、今年の会場はどこだ?」
「ちゃんこ屋を貸切りだそうだ」
リゾットが茶箪笥の引き出しからインビテーションと書かれた和紙封筒を取り出して広げる。
結婚式の招待状のようなそれは、実はここの二階の一室で作られたものだった。
「直箸でつつき合う食べ物なんて、ソルベもジェラートもイルーゾォもまず食べないよね……」
自分を庇ってくれそうなメンツが全滅しそうな雰囲気に、ナナシは益々憂鬱になる。
「残念ながらイルーゾォの方は強制だ。例の側近二人がご執心だからな」
「あのホモ二人はメローネじゃあなかったか?」
得体の知れないメーカーの小さなチョコボールの袋を開け、ホルマジオはナナシにも中身をすすめる。
「あぁ、一回メシ食いに連れて行かれてたな。夜遅く帰ってきたが、それ以来声がかからなくなった」
何があったのかを想像しそうになったナナシは、途端に背筋が寒くなった。
油っぽくて口どけの悪いチョコが気持ち悪い。
「年イチだから今回は組長も顔を出すだろう」
「あーのーローンー毛ェー!?」
「お前のことをえらく気に入っているんだ。それに、まかりなりにも組長に対してその顔はやめろ。たとえ三十五歳にもなってマダラに染めたピンクのロン毛でもだ」
ウェーと顔を歪ませるナナシをリゾットがたしなめ(?)る。
「めかし込んでいけよ。あらゆるセクハラがチャラになるくれェ、小遣いたんまり貰ッてこい」
面白くはないものの、上の機嫌はそれなりにとってもらわなければ困る。
プロシュートもリゾットもホルマジオも、生け贄として差し出される娘を見送る親のような顔をしていた。
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