『デパァト』
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銭湯の掃除を終えたホルマジオとプロシュートと
ナナシは、いつもどおり一番風呂のご褒美に預かった。
賞味期限ギリギリのコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を手に、湯冷ましがてら歩いてきた河川敷に並んで座り、ぼけっと水面を眺める。
厚ぼったい外套の季節はとっくに終わり、川縁にはあたたかな春の日差しが降り注いでいる。
川に向かって降りるなだらかな斜面いっぱいの、太陽に向いた蒲公英(たんぽぽ)、白い花を頭につけた薺(なずな)。
気の早い露草は蜆(しじみ)のような形のちいちゃな青い花、クロウバーにはぼつぼつと白く丸い花がつき始めで、あとはのこのこと背丈を伸ばした土筆ん坊。
紋白蝶が川風に煽(あお)られながらも、ふらりひらりと花にとまる。
平日ど真ん中の真っ昼間、まだ若い三人が『たったいま朝風呂に入ってきました』という匂いを漂わせていれば、「無職」以外の何者にも見えない。
事実そうなのだから、これは仕方がない。
河にかかる橋の上を、スーツの人も車もバスもタクシーもせわしなく行き来している。
ウォーキングウェアに身を包んだ『おじいさんに近いおじさん』や、保育園にも行っていないような孫をつれた『おばあさんに近いおばさん』が目の前の遊歩道を横切った。
すぐそこには水上バスの停泊場所。
今日は古ぼけた船の甲板がピンクと白のバルーンで飾らている。
小さくささやかなボードも置かれ、貸切でウエディングパーティの会場になっているようだ。
「あ!花嫁さん出てきた」
フルーツ牛乳のヒゲをつけた
ナナシが目を輝かせた。
花嫁はもう中年で、肩や腕を露出しないレトロなドレスを着ている。
降り注ぐ日差しに、真っ白なチュールがとても眩しい。
「ん~?……オイオイ、随分年増なカップルだなァ」
「あら、幾つだっていいじゃない。ウエディングドレスは女のアコガレなの!」
ニヤニヤと笑うホルマジオに、
ナナシが真剣な眼差しを向ける。
「お前も着たいか?」
「あー、いいや。うかつに着たいなんて言ったら、組長かジョルノパパあたりが物凄いのを作りそうだし。あとメローネ」
「ギャハハハ!違ぇねぇ!」
そんな
ナナシの口を首にかけたタオルで拭いてやりながら、プロシュートは花嫁の顔にうっすら見覚えがあるような、ないような気がしていた。
一回くらい『飲み屋※』や『風呂屋※』で会った女の顔なんか覚えちゃあいない。しかも、自分の範疇(はんちゅう)からしたら随分と年齢が上。
少し考えて、答えが出ては来なそうだとすぐに諦める。
「……うめェ」
ゴクリと飲んだ瓶のコーヒー牛乳には太陽のマークがにっこり笑っていた。
20090406