『デパァト』
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新たに現れた男に、娘がビクリとして顔をあげた。
がっしりとした体格の長身の男は随分と落ち着いて見え、娘の前に座るスーツの男とはまた違った魅力があった。
「探したぞ」
娘は戸惑いを見せたが、スーツの男は全く動じなかった。
隅の席のマダムたちも、新たな男の登場に目が離せないでいる。
長身の男はついたての影にキミエの姿を見つけると、ぐいと顔を向けて「マンデリン」と告げる。
娘がチラとこちらを見て立ち上がったので、キミエはレジへと向かった。
「ひとりで逃げるな」
「逃げてねェ」
「逃げたんだろう?」
「ガキのお遊びに付き合いきれなくなっただけだ」
冷めていたコーヒーに手を伸ばした、スーツの男の声も冷めたものだった。
一口含んで、苦い顔をする。きっと、思ったような味では無かったのだ。
緊張の面持ちで娘が席に戻ったところで、二人の会話が一旦止まった。
「キミエちゃん、」
ヨシオカが入れたコーヒーをまた席へと運ぶ。
「しっかり逃げているじゃあないか」
キミエはピリピリとした空気に怯えてしまい、カップを取り落としそうになる。
ゆうらりと揺れた黒い水面はギリギリで縁を超えなかった。
キミエは半券を持って逃げるように立ち去る。
「……ごめんなさい」
びっしょりと汗をかいたグラスを前に、娘は憂いを含んだ瞳で俯き、蚊の鳴くような声で呟く。
「お前は悪くない」
「……フン!」
これが世に言う『痴情のもつれ』による『修羅場』だろうか。
キミエは自分の職場でこんなドラマが繰り広げられることになろうとは夢にも思わなかった。
こういうものは、クラシックが流れ、それこそブルマンやモカのある喫茶店かどこかで『おごそかに』行われるべきだと思っていた。
現在進行形で、そう思っている。
スーツの男と娘はもともと付き合っていたが、長身の男とも関係を持った。しかし娘はスーツの男とやり直したい───とみて、いいだろう。
「好きにやってりゃいいじゃあないか。俺を巻き込むんじゃあねェ」
「寂しい男だな」
「言ってろ」
長身の男がコーヒーに口を付け、さっきスーツの男がしたような渋い顔になった。
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