『デパァト』
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整った横顔、引き締まった薄い唇と細い顎、鋭い目を縁取る睫毛は長く、若いながらも男の色気に満ちていた。
ぴしりと撫でつけた髪を後ろで幾束にも結わえ、彼の軌跡に深い香りが残る。
キミエより十ばかり、もしかしたらそれ以上若かいかもしれない。
それらしいことに興味がなかったキミエには、男が着こなしたスーツも靴もシャツもどこのブランドか見当もつかない。
しかしそれらは、彼のために仕立てられたのではないかとも思える隙のなさでしなやかな体を包んでいた。
「あのう、こちらで食券買っていただけますか?」
最近にしては珍しい、かつては会計時の混雑を避けるために作られた食券販売システム。
こんな、普段は小洒落たカフェーにでもいそうな男がそれを知らないのは無理もなさそうだが、キミエは逸(はや)る心を抑えて事務的に声をかけた。
男は心ここにあらずで「あぁ、」と言ったが、大きな窓の外に広がる古いビル群に視線を投げ出したまま、だった。
そしてようやく、内ポケットの財布から札を出し「アメリカン」ともう一度告げる。
『なんて自分勝手!』
しかし、弛(たゆ)まない挙動ひとつにさえキミエは痺れた。
緊張しながら札を受け取り、食券を購入して釣りと千切った半券をテーブルへと戻す。
こんなファミリィレストランふぜいに、キリマンジャロだグァテマラだという括りはない。
キミエには、まるでそれが自分の価値であるかのように悔やまれた。
「ホットコーヒー」と書かれた半券を、ワゴンの上に差し出した。
ヨシオカがコーヒーを入れる間、厨房とフロアを隔てるパネルのうしろからチラチラと男の様子をうかがう。
長い足を組み直しながら腕の時計を確認する仕草は、かつて憧れた宝塚のトップスタァ。
それをそのまま舞台から引きずりおろし、本物の男にしてしまったよう。
よくは見えなかったが、多分それもブレンドものなのであろう時計の文字盤が、一面の窓から差し込む日差しをキラリと弾き返す。
「キミエちゃん、」
ヨシオカの声にはっとしてトレイにコーヒーカップを受け取り、キミエは初めて接客をした時のような緊張を抑えながらいそいそと席へ運んだ。
「お待たせしま「待った?」
キミエの声に、宝塚の娘役のような、涼(すず)やかな声が後ろから重なった。
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