『3104丁目、落日』
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「お待たせ。お昼にしよう」
数分後、タンタンと階段を降りてきたナナシは服も髪も乱れてはいなかった。
「早かったな」
「まあね」
色気ひとつ漂わさないナナシは台所に入って行き、ざっと手を洗う。
「ギアッチョは?」
「?寝てますよ?」
鍋を火にかけ、ネギと蒲鉾を切る。
手際よく丼をあたためて箸とレンゲを盆に用意しているナナシに、リゾットが不信な顔を向けた。
「どういう事だ?」
「人には急所というものがありましたよね、リーダー」
わざとらしい笑顔に恐怖を覚えたリゾットは、それ以上追求するのをやめた。
あまり考えすぎると、自分の下腹まで痛み出しそうだからだ。
「ぅいーお疲れーつかまじ寒ィー!」
ざっと五人前の蕎麦が茹であがった頃、玄関にドサリと荷物を置きながらホルマジオが入ってきた。
ティッシュをザッザッと取り出し、ズビーと鼻をかむ。
「お帰りホルマジオ。雪降ってた?」
「いや、止んだの見計らって出てきた。プロシュート、DS」
鼻先を真っ赤にしたホルマジオは荷物の中から白い箱を探し出し、畳の上を滑らせた。
「iが出てるのに?しかももう三台めじゃん!!」
器に汁を張りながらナナシが声を上げる。
「これはペッシの分だっつーの。お前にゃこれだ」
差し出された黄色いビニールの束は、市の指定ゴミ袋。
「うわぁ、地味にありがたいかも」
オトトと掴んだ滑り落ちそうな袋の上に、ホルマジオはポンと真新しい財布を置いた。
輪っかのついた球体の頂点に十字がついたモチーフの、誰でも知っている某ブランドのものだった。
「あまり玉みてーなモンだから気にすんなよ?」
ナナシの頭をワシワシ撫でたホルマジオの本日の成果は二店舗で30万。
と、昔のパチンカーよろしくたっぷりの菓子、全員分の煙草、玩具、インチキな匂いのブランド品。
『両手いっぱいの景品』というのがそれらしくて好きなのだそうだ。
ゴミ袋を所定の位置にしまったナナシは、新しい財布を手に持ってホルマジオの背中に抱きついた。
「ありがとー!」
「ったく、しょおがねぇなぁ。蕎麦伸びっから食おーぜ」
煙草の匂いが染み付いた茶の間に、柔らかい出汁の香りが漂った。
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