『3104丁目、日常』
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ナナシは進行中のファイルを保存してパソコンをパフンと畳み、目の前の指示書を引っぺがしてノートの間に挟む。
ジェラートの膝をよけてデスク下から這いずりだし、保護材に包んだそれらをガサとリスパールのお買い物エコバックに突っ込むと部屋の一番奥に位置する窓を開けた。
「データは?」
「ネカフェから送る」
一旦下に荷物を置き、外壁に括り付けられた縄梯子を下に垂らす。
「いい子ね。帰りにラックミーバナナ味」
「アタシはコーヒー味」
「明日……明後日以降になるかもだけど」
買い物帰りの主婦よろしくエコバックを肩に引っ掛けたナナシは、荷物の一番下になっていたミュールを取り出して足先に引っ掛けた。
「データが今日中なら構わないわ」
「D'accordo」
「「ナナシちゃん」」
ソルベとジェラートの二人が、そこで初めて体半分が見える窓へ顔を向ける。
パンパンと二人から投げられたものを片手でキャッチすると、バックの持ち手がガクンと肘の位置にずり落ちた。
手の中に、ピンクのパッケージの『貼るオンピックス』と、緑のラベルの『リポビテンDライト』。
「そこのロングコート、引っかけていきなさい。ユネクロだけど」
「むき出しの素足にミュールだけよりはマシでしょ?」
「二人とも!グラーツィエ」
涙ぐむナナシに、ソルベとジェラートはウインクしてみせた。
ダウンを掴んだ腕が冷たい風を吹き込む窓の向こうへ見えなくなり、ヒールの音が遠ざかっていく。
「しょうのない子。開けっ放しにして」
画面に視線を戻したジェラートがフゥとついた息で、モニタの周りに貼られた付箋がヒラヒラと揺れる。
「丁度いいから換気しましょ」
ソルベもモニタを見つめて手を動かしながら、自分は立ち上がる気がないことを匂わせた。
「LUCK(幸運を)」
「PLUCK(勇気を)」
全く似ていない顔が、鏡を覗く一人のようにそっくりな笑いを作る。
「さて、と。もうちょっとだけ風通しがよくなるかしら」
「そういえば、知ってる?イタリア語でサヨウナラってアリーヴェデルチっていうらしいわ」
「ふぅーん。じゃ、『蜂の巣』は?」
「知らないわよ」
喧しい足音が近付いてきたところで、二人は各々の引出からサブマシンガンを取り出した。
END