『3104丁目、落日』
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「今年もあと少しで終わるのか」
コタツで東スポを開いていたリゾットが正月特番の番宣CMに気が付いて顔を上げた。
「こう寒いと仕事も入らねェな」
プロシュートが競馬新聞をバサリと畳みながら耳に蛍光ペンを引っ掛ける。
一通り注目馬をチェックし終えた「勝馬」には、緑色のラインと書き込みが山ほどされていた。
リゾットのショートホープに手を伸ばすと、最後の一本を取り出して火をつける。
「なァ、これオネーチャンのいる店か?」
プロシュートが取り上げたダサいライターには『アネモネ』と書かれていた。
黄みがかった透明なボディのオイルの中には水中花が入っている。
「解らん。ホルマジオあたりが持ってきたんだろう」
「あ、それ私のです」
台所から姿を表したナナシがエプロンをはずしながら言った。
寝転んでDSをカチカチやっていたギアッチョが顔を上げる。
「お前、また変な店でバイトしてるんじゃあないだろうな?」
プロシュートにヒョイと投げつけられたライターを難なくキャッチして、軽く振って見せた。
「印刷会社のプリントサンプルよ。住所も電話番号も印刷会社の」
ガラスの灰皿にプロシュートが最後の一本を押しつけるのを待ち、食べ散らかされたみかんの皮と一緒に片付ける。
「お昼は狐うどんですよー」
コタツテーブルを台拭きで拭きながら、ギアッチョが崩れかかった山のようにしていた小さなソフトをテレビの上によけた。
「あァ?せめて蕎麦にしろ」
そんな軟弱な物は男の食い物じゃあねェというプロシュートに、モソモソとコタツから這い出したうどん好きのギアッチョがムッとする。
「そう言うと思ったからプロシュートとリーダーはお蕎麦よ」
呆れながら言ったナナシの腕をプロシュートが引っぱる。
「ハナっからそう言えよ女狐が。テメーを喰ッちまうぞ」
「その時は俺も混ぜろよ?」
立ち上がって新しく煙草のカートンを開けながらリゾットがさらりと言った。
「オメーらマジで止めろよなクソッ」
電源を落としたDSをテレビの脇に置いたギアッチョが不服そうにする。
「ギアッチョは混ざってくれないの?」
プロシュートの首に抱きついたまま、ナナシが手を伸ばしてギアッチョの顎を指で撫でた。
腰のあたりを撫で回していたプロシュートがナナシを自分の方に向かせ、Vカットの胸元に顔をよせる。
「やめとけやめとけ。コイツじゃあ煮ても焼いても暖まれねーぞ」
「っクソッ!!」
四つ這いになっていたナナシのウエストをグイと寄せ、オリャーと俵担ぎに持ち上げた。
「っきゃ───!!」
「その大層なご期待に応えてやろうじゃあねぇか!」
ダンダンと上がる階段の音が響き、ゴス、とナナシの一部がどこかにぶつかる音と「痛ーい!」という悲鳴。
そして二階のドアがバタンと閉まる。
「混ぜろと言ったはずなんだがな」
遅くなりそうな昼食を閉じた瞼に思い描きながら、リゾットは小さな箱のセロファンをクルリと剥いた。
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