『3104丁目、日常』
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ピィ───ンポ───ゥウン。
「マイド有難うございまーす。ご注文の品お届けにあがりましたァん!」
数年前の地震以来歪んでしまったチャイムの音の後、威勢のいい男の声が茶の間に響いた。
「はいはーい、あぁ!待ってましたッ!ていうか、ポルナレフさん?再就職ですか」
「いやぁ、ハ、ハハ。それにしてもすいませんねぇ、時間かかっちゃって」
開けられた襖の向こうに、献血ルームのスタッフが見たら「勿体無い!」と嘆きたくなるほど(各所から)血を流して倒れた男三人が見えた。
ポルナレフは、もちろん見えないことにした。
「ホンっ───トに時間かかりすぎですよ!クリスマスまでって言ったのに年開けちゃったじゃあないですか!」
大きな、しかし大して重たくもなさそうな荷物を運び込むポルナレフにチクチクと言いながら、玄関先に置いているシヤチハタ印をポンと納品書に押す。
「あーざーす」
赤い丸に『黒井』と書かれたスタンプを押されたB6サイズの紙を、それより少し大きい紙ファイルに閉じて腰に引っ掛ける。
「じゃ、またご贔屓にー」
「はいはい。頑張って下さいねー」
たたみ一畳分より少しばかり小さく膝の上ほどの高さがある立方体は、雪の結晶がプリントされた白い紙でくるまれ、幅広の赤いリボンがかけられている。
「さ、てと。これ持って階段登るのは流石に怖いなー」
「何だァ?今度はジャージー牛一頭まるまるお取り寄せか?」
ポルナレフと入れ替わりで入ってきたホルマジオがリボンのかかった塊を叩く。
それは硬い肉の感触ではなく、柔らかい弾力を手に伝え、綿が詰まっているのを確認させた。
「縫いぐるみか?」
塊が邪魔をする狭い玄関の隅にどっかりと座り込んでブーツを脱ぐ。
「似たようなもの、よ。プロシュートの部屋までお願いできる?」
「しょおがねェなぁ…」
ホルマジオのスタンドがリボンの末端を少し切り、「私も!」と飛びついたナナシを抱き留めて服の裏を微かに傷付ける。
「アイツ、まだ帰ってねぇぜ?」
「かえって好都合」
間違っても箪笥の奥なんか覗くんじゃあねぇぞとポケットのナナシによく言い含め、四角い塊片手に二階の襖の一つを開けた。
「まーたー裸の女のポスターァ!」
「あっ!コラ」
ホルマジオが制止するより早く身を乗り出したナナシが紙の上端に飛び移り、両手でしっかりと掴むと自重でバリバリと縦に破いた。
ひ・よ・り、と書かれたロリータフェイスのナイスバディが真ん中で引き裂かれる。
「おっ前なぁ…!怒られンぞ?」
「かばってね。事故でしたって」
「勘弁しろよなァ」
元のサイズに戻った立方体にポスンと落っこちた小さなナナシがニーと歯を見せた。
「その代わり、今日は背中流したげる」
「性的な意味でか?」
「性的な、イミで」
「……しょおがねーな!『一肌脱いで』やろうじゃあねぇか」
ゲンキンな取引に易々と乗ったホルマジオが、髪に引けを取らない赤い顔を明後日の方向へ向けた。
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