互<タガ>いに臭骸<シュウガイ>を抱<イダ>く
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安いホテルを一部屋。
信用ならない鍵のついたクロークへ、貴重なものなど一つも入っていないボストンを放り込み、ポークのジンジャーソテーやキリッと甘いレモンアイスクリームを思い描いて街へ出た。
しなやかな体の猫が横切る。
体全体が黒く見えたのは闇と逆光のせいで、民間の窓際に飛び移った体は錆びの茶と滲む黒のまだら模様で、まるで木彫りの猫の置物のようだった。
過去の経験から、旅先での食事は安ホテルに併設されたレストランで取るまいと心に決めていた。
声をかけられれば、彼女は遠慮せず食事と酒を奢らせる。
もちろん、声をかけてくる男の大多数が『その先』を目的としたが、彼女はそれを見抜く目とあしらいを身につけた。
一緒に食事だけでもという男を目ざとくうまく捕まえた。
腹がふくれればホテルに帰り、今日一日乾いた風に晒された頭のてっぺんから熱いシャワーを浴びて文字を追いたくなる。
もう会うこともない男に食事の礼と別れをつげ、互いの頬にキスをする。
時々後ろを振り返りながら歩く。
さっきから、どこかで見たような男の後ろ姿を追うようなかたちで同じ方向へ進んでいる。
彼は小ぶりのボストンバッグと、ウォレットチェーン……というには少々味気ない、しかしちゃんと収納力のある財布を繋いでポケットに入れていた。
服装を気にする『良く知る男』が一週間の荷物を収納しきるには少なすぎる気もするが、それでも旅慣れた男にはそれが必要最低限、そしてそれで十分であることがよく解っていた。
「今晩は」
「奇遇だな。追いかけてきた?」
「まさか」
バッグを持ち替えながら手袋を脱ぎ、握られた温かい手の感触が彼女に直に伝わった。
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