クラフト・ワーカー
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ソルベとジェラートのように部屋に籠もり続けるのもいかがなものかと、ナナシは晴れ渡った空を見上げた。
ここに来て五日、思い出したくも考えたくもない事ばかりが頭の中でループする。
いつものように練りに練った悪戯で仲間達を手酷い罠に陥れ、好きな酒でも選んで飲めば少しは気が晴れるのかも知れない。
しかしここには陥れる仲間もいなければ片棒を担ぐ相棒もいない。
晴天は憂鬱を悪戯に煽るばかりで、何の慰めにもなりはしなかった。
数え切れないほどついたはずのため息が、まだ出し足りないというように一つでた。
暇にかまけて沢山洗ってしまったが、この天気ならきっとよく乾くだろう。
このアパルトも洗濯用に屋上が明け渡されていて良かった。
……落ちたら死ぬけど。
漠然とそんな事を考えながら、また一枚濡れたタオルをカゴから引きずり出した時だった。
「やぁ。こんにちは」
バタバタと音を立ててひらめくシーツの向こうに、誰かが立っている。
「こんにちは」
毛束を作ってエアリーにセットされた髪が風になびく。
細身の体に添う露出の多いシャツと派手なパンツは、久しく姿を見ていない仲間の一人を思い出させた。
男は崩れ落ちたビルの断面ギリギリに立ち、煙草を靴の踵で消す。
律儀に吸い殻を煙草の紙箱とセロファンの間にねじ込んでから、きちんとナナシに向き合った。
「あなたは?」
「煙草吸いに来たら自分好みのベッピンが寂しい顔してるのを偶然見かけちまった、通りすがりの一階の住人だ」
くい、と人差し指をナナシの方へ向けて笑ってみせるものだから、つられてナナシも笑ってしまう。
「あなた、面白いわね」
「こんな廃ビルに住もうなんてアンタもな」
彼がいうのももっともなのだ。
隣のビルの解体時に大失敗して、四角いケーキをざくりとフォークで削り取ったようになった建物。
鉄骨の骨組みも砕けたコンクリートやレンガもパイプも配線もそのままに、各階が層になって断面をむき出しにしている。
一階で住めるのは三室のみ、二階から上にいたっては一室ずつしかまともに機能していない。
それでも水や汚水、電気やガスなどに問題なく住める状態なのが不思議なのだが。もちろん他の家族と大家はとっくに逃げ出した。
「家賃が無くっていいじゃあない」
「全くだ」
男はナナシの隣にべたりと座って空を見上げた。
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