見つけて。ここにいるから
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ジェノヴァの港を出てすぐに、プロシュートは自分の荷物をペッシに任せて大通りを突っ切り、いくつかの路地を曲がって姿をくらました。都合の悪い取引の、というわけではないが、ビジネスの話に首を突っ込めるほど成熟していない弟分を連れていくのは避けたかったのだろう。
「先にホテルへ行って、あとは適当に過ごしていい」
抑えてあるホテルへの道順を簡単に記した紙切れ一枚を渡した。内容が正確であれば何の問題も無かっただろう。兄貴分のポケットの中で、『ホテルへの道のり』はいつの間にか『ナナシに押し付けられた買い物のメモ』へと化け、今ペッシの手に握られていた。
長い石の階段を登りきり、別の階段を降り、途中方向を変えて個人宅のドアの前に行き詰まり、引き返して別の角を曲がる。
空からは今にも雨粒が落ちてきそうな、怪しげな雲に覆われている。高い建物は路地を囲み、暗い空の僅かな光を無情に遮って、いっそう重苦しい影でペッシをくるむ。日に当たらない建物が発するカビの臭いと、それに混じって潮の匂いをさせる風がヒヤリとしてきた。
心細くなる。プロシュートの何事かの用事が終わるまで、電話はかけるなときつく言い渡されている。
何人かの男が集まっている。ギラギラした目で見られる。同業だろうが、ここでのいさかいは御法度だ。
人通りはない。入り組んだ路地の深くにまで入り込みすぎ、開いている店も見当たらない。観光客で賑わっているはずの方向、『旧市街へはこちら』と、矢印のついた看板も見当たらない。
もう一度、港へ。……どの方向へ行ったら?海から吹く風と信じ、ペッシは風上に向かうよう路地を横切り始めた。高い建物の間を縫って通り抜ける風の方向など、アテにならないのに。
石畳の濡れる匂いがした。僅かな隙間の砂に根を張った雑草が、水の玉を受けて揺れる。
見上げた空が、湿った路地裏をさらに湿気らせる大きな雨粒を落としはじめた。
『見つけて。ここにいるから』
もう自力じゃあ無理だ。