言って。どんなことでもいい
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料理など滅多にしない男が三人、同じ夕食の席についた。皿の中のものを作ったのはそのうちの一人で、キッチンに洗い物の山を築き上げてようやく、スープと、形がばらばらのショートパスタに何かソースが絡まったのと、切っただけのトマトのディナーを完成させた。それらが皺のよったマットの上に並ぶと、腹を空かした二人が思わず顔をしかめた。
今日もやはり祈ることなど何もないのに、習慣で指を組み、一拍置いてフォークを取る。コンキリエとファルファッラが一緒に刺さってくる。
片方は出来損ないのアルデンテで、片方はフニャフニャの茹だりすぎだ。乾燥した生の小麦粉の味を噛みしめれば、噛み合わせの隙間に硬いものがカッチリとはまり込んだ。粘りつく茹で不足のパスタを舌先で取ろうと画策すると、圧迫された舌下から唾液が滲みだす。
諦めて、別皿に乗せられたトマトにフォークを突き刺した。塩とオリーブオイルを振っただけのトマトは生臭い。つるりとした皮と果肉との境目に、生肉の脂身の破片が付いている。豚肉を切ったあと、洗わずに切ったに違いなかった。
ぬるいスープは全く味がしない。お湯の中に野菜の青臭さが溶けただけの味だ。
「まずい」二人のうちどちらかが、もしくは本人が一言そういえばいいだけの話だ。
何が足りないとか、これがいいんじゃあないかとか、今後の発展が見込めよう。
作ったものに対する感謝、いや、自分から動かなかったぶんの非があるだけに、二人は出された食事を黙々と口へ運ぶ。
唖(おし)の集まったような食卓で、一人のコックと客人二人の食事は続く。
『言って。どんなことでもいい』
マズいならマズいと切り捨ててほしい。