生きて。死ぬまで
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埃をかぶっていたビデオテープをケースから取り出し、日焼けして剥がれかけたラベルを確かめた。調子の悪いデッキに突っ込む。配給会社のロゴが映り、一度は耳にしたことのあるあの優しいテーマソングが、音程のはずれた間延びで流れだす。
午睡を誘うのにうってつけの、とうに観飽きた、退屈な物語だ。
幾つか束を作って、後頭部に結わえていた髪を解いた。ワックスがついたままのゴワつく頭で、ベッドに寝転ぶ。
サイドテーブルの上では、薄く入れたジンがソーダの泡でアルコールの匂いをはじけさせる。パンくずと、生ハムの切れ端が乾いてこびりついた皿さえ出しっぱなし。散らかった部屋に、仕事も色恋の揉め事も何もない、優雅な時間が訪れる。
頭は空っぽ。考えることなど何もない。二つの目玉は映画の中の映画館の影をぼんやりと眺める。
古いVHSテープの映像は、数秒と間を開けずに灰色の線を走らせる。もう何十回と再生されたか知れない。
画面の中で戦争が始まる。現実の世界はドアブザーもセルフォンのコールも起こらない、相変わらず平和な午後のままだ。
映像が乱れる。しばしグレイの画面が続き、切れ切れの声が苦しげにも聞こえる。主人公の恋の苦しみのように。
「テープのほうが先に死にそうだな。きばれよ、せめてフィリップ・ノワレが死ぬまで」
部屋の主は身勝手な台詞を吐ききる前に、眠りの縁へと意識を手放していた。
『生きて。死ぬまで』
ニュー・シネマ・パラダイスは最後の台詞がいいから最後まで見て。
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午睡を誘うのにうってつけの、とうに観飽きた、退屈な物語だ。
幾つか束を作って、後頭部に結わえていた髪を解いた。ワックスがついたままのゴワつく頭で、ベッドに寝転ぶ。
サイドテーブルの上では、薄く入れたジンがソーダの泡でアルコールの匂いをはじけさせる。パンくずと、生ハムの切れ端が乾いてこびりついた皿さえ出しっぱなし。散らかった部屋に、仕事も色恋の揉め事も何もない、優雅な時間が訪れる。
頭は空っぽ。考えることなど何もない。二つの目玉は映画の中の映画館の影をぼんやりと眺める。
古いVHSテープの映像は、数秒と間を開けずに灰色の線を走らせる。もう何十回と再生されたか知れない。
画面の中で戦争が始まる。現実の世界はドアブザーもセルフォンのコールも起こらない、相変わらず平和な午後のままだ。
映像が乱れる。しばしグレイの画面が続き、切れ切れの声が苦しげにも聞こえる。主人公の恋の苦しみのように。
「テープのほうが先に死にそうだな。きばれよ、せめてフィリップ・ノワレが死ぬまで」
部屋の主は身勝手な台詞を吐ききる前に、眠りの縁へと意識を手放していた。
『生きて。死ぬまで』
ニュー・シネマ・パラダイスは最後の台詞がいいから最後まで見て。
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